シスジェンダー(非トランスジェンダー)特権チェックリスト


The Transgender Boardsが配布している シスジェンダー(非トランスジェンダー)特権チェックリストThe Cisgender Privilege Checklistを教えてもらいました。


ここで使われている「シスジェンダー」は、「トランスジェンダーではない人」のこと。「シス(cis-)」とは「こちら側の」、「トランス(trans-)」の対義語。
cisgender・シスジェンダー−Anno Job Log


ひとくくりに大ざっぱに「性的少数者」という言葉を僕はよく使いますが、トランスジェンダーと同性愛者・バイセクシュアルは大きく違います。
たとえばトランスジェンダーに対して、シスジェンダーのゲイは完全な強者、マジョリティです。
僕もトランスジェンダーの知人はいるけれど、トランスジェンダー性同一性障害の人たちがこの社会で抱える困難や生き辛さが分かっているとは思えません。


しかし、トランスジェンダー性同一性障害の人の直面する生きづらさが理解できない、というのは、例えば僕が「トランスジェンダー性同一性障害の人たちの困難な境遇を分かっていない」せいでしょうか。
「男」「女」の制度に適応できているシスジェンダーの僕が、自分自身の《恵まれた境遇》について分かっていない、「この世がどれほどトランスジェンダーでない人にばかり都合よくできているか」を自覚できていないせいでも、あるんじゃないか。


この「非トランスジェンダーの特権」については、ひびのまことさんが指摘しています。
「トランスジェンダーではない人」の社会的特権ーThe Non-Trans Privilegeーーばらいろのウェブログ(その2)
  
「非トランスジェンダー特権」についてのひびのまことさんの講演を、akaboshiさんが録画して公表しています。
トランスって?13●トランスジェンダーではない人の社会的特権01●意志に関係なく持っている「特権」を意識せよ - フツーに生きてるGAYの日常
トランスって?14●トランスジェンダーではない人の社会的特権02●「同性愛」と「性同一性障害」の社会での扱われ方 - フツーに生きてるGAYの日常


トランスジェンダーの生き辛さや困難について教えてください」
というまえに、
「非トランスジェンダーはどんな特権を持っているのか?」
をチェックしてみてください。
と、いうのが、この「非トランスジェンダー特権チェックリスト」です。


このエントリの一番下に、訳してみました(またヘンな日本語)。
当然、内容は日本社会向けじゃないですし(貨幣単位からしてね)、ちょっとよく分からない質問もあります。
こういう「特権リスト」は日本語でもあるんじゃないかと思うんですが、どうなんでしょう(ご存知の人は、教えてください)。
あと、作成者が言っている通り、問題が少なすぎますね。一生のライフサイクルから日常の細々とした事柄まで、僕らが気づいていない、当たり前だと思っている「非トランス特権」を具体的に上げていったら、膨大なリストになりそうですが(回答に2、3時間ぐらいかかるような)。誰か作らないだろうか。


やってみました


該当する24問中、YESが19、NOが2、どちらとも言えない・分からないが3。
完全に「非トランス特権」に浴している人間のデータです。

回答問題No
YES193/4/5/6/7/8/9/10/11/12/13/14/15/16/22/24/25/26/27
NO21*1/17*2
該当外418/19/20/21
どちらとも言えない22*3/28
分からない123


やってみると分かりますが、シスジェンダーでも、YES、NOの判断に苦しむ、どっちつかない質問も、結構あると思います(僕はとりあえず、日常的な公私の生活に決定的な影響がありそうかどうかで判断しました)。
いわゆる「女らしい」「男らしい」とされる外見を持っていない人(例えば背が低い男性や背が高い女性)、性的な自信や満足を持てない人、不妊の人(15、16、17、18、20 etc.)、要するに「男女がつがいになって子をなす」異性愛規範の条件から何らかのかたちで外れる人は、程度の差はありますが「非トランスの特権」に浴しているとは言いがたい、と言えそうです。


「男」か「女」かというジェンダーの規範がもたらすさまざまな圧力は、結局、医学的な意味での性別違和を持つ人だけの問題ではないわけですね。


しかし、服装も公共施設の利用もいろいろな書類手続きも問題なく、性別適合手術に莫大な金額を費やす必要もなく、規定されたジェンダーで問題なく生活しそれを楽しみ、トランスジェンダーへの偏見の眼差しに傷つけられることもない人間(僕)は、大きな特権を享受している、と気づかされます。


トランスジェンダー特権チェックリストThe Cisgender Privilege Checklist


「広範囲にわたるシスジェンダー(非トランスジェンダー)の特権リストとしては、ささやかかもしれない。このリストは、特権を有することについて、だいたい1人称で書かれている。No.1は、異性愛者とシスジェンダーの特権の両方について語っている。残りのリストは、シスジェンダーの特権に焦点を当てている。」
このリストを読み、転送して、トランスジェンダーの人びとがしばしばぶつかる、シスジェンダーの人びとが日常を基準にして当然だと思っている困難を、人びとに気づかせてください。


1.自分のアイデンティティを公言したり、相応しくないと見なされるジェンダー的行動や特徴を持っているせいで、家族や友人から追い出されたり、仕事をクビにされたり、自分の家から立ち退きさせられたり、病院で不十分な手当しかうけられなかったり、暴力や性的虐待に苦しめられたり、メディアに愚弄されたり、宗教団体から説教で批判されたりすることは、ないと思う。
2.自分が自分とは違う名前で呼ばれたり、妥当じゃない呼称を使われたりすることはないと確信できる。
3.トイレがちゃんと使えて、使用中でもないのに、「我慢する」という憤りに苦しんだことはない。実のところ、公共施設が性別で区別されていることを、気にしなくてもいい。
4.もし入院したり収容されたりしても、性別で区別された施設で間違った場所に入れられないか、心配しなくてもいい。
5.性別で区別されたサービスを受けようとしたり催しに参加しようとしても、拒絶されることはない。
6.無邪気な子ども時代が、目覚めたら違う性別になっていますようにという絶望的な祈りで乱されるということはなかった。
7.異なる性に生まれたために子ども時代や思春期を失ったことを悲しんだことはない。
8.思春期は一度しか経験しないだろう。
9.恋人になるかもしれない人の態度が、私の性器のために、ほれ込んだ態度からいきなり軽蔑、暴力にさえ変わるかもしれないと心配したことはない。
10.自分の性器について人に訊かれることはないと思う。ましてや勝手に触られたり、見せろと言われたりするなんて、ありえない。
11.ばれることが怖くてきちんと医者に罹らず、自分の健康を危険にさらすことはないだろう。
12.体の一部を締めつけたり挟み込んだりして隠そうと考えたことはない。
13.声を変えようと考えることはないと思う。
14.専門医に病気の診断を受けたとき、医療保険の適用から除外されることはありえない。
15.男として、ほぼ年齢相応に見えるし、体も他の男と同じようなサイズ、型をしている。
16.男として、性器の機能にほぼ満足している。
17.男として、ほぼ間違いなく子供の父親になることが可能だ。
18.女として、ほぼ他の女性と同じようなサイズ、型の体を持っていそうだ。
19.女だから、中年まえに髪がなくなることはないだろう。
20.女だから、ほぼ間違いなく妊娠して子どもを持つことが可能だ。
21.女として、今後の人生ずっとダイレーション(膣拡張作業)*4し続ける必要はない。
22.オーガズムを得ることはほぼ可能だ。
23.退職には5万ドルを費やすか貯めるかしなければならないだろう。
24.1000ドル費やして何ヶ月もセラピストにかかり、すでに分かっていることばかり聴かされている、という自分を想像できない。
25.肉体的に健康だったら、子宮摘出、乳房切除、永久脱毛、抗ホルモン療法、変声手術、顔や性器の適合手術を受けようとは考えない。
26.自殺せずに老年まで生きる道はある。
27.葬儀のとき、家族は私が生前望んでいたのと違う異性装をした写真を飾ったりはしないだろう。
28.見たままのジェンダーで受け入れられるかどうか心配しない。受け入れられなかったらどうなるか、その結果自分の非トランスジェンダーの特権を失うということには気づかない。実のところ、私には自分のシスジェンダー的特権に完全に無自覚でいる特権がある。

*1:すべてに当てはまりはしないけれど、同性愛者だとカムアウトしたときのリスクとしてあります。

*2:ゲイの僕が「子どもの父親になる」には、現代日本では法的にも社会的にも困難が多すぎますね。

*3:侮蔑的なニュアンスで「ホモ」と呼ばれたり、「ゲイは中身は女だ(レズビアンは男だ)」というたぐいのことを執拗に言う人(または同性愛者と性同一性障害を混同する人など)に遭遇したときに、感じないでもありません。でも、自認しない性別を強制される抵抗感とは大きく違うでしょう。

*4:SRS(性別適合手術)で造膣手術を受けたMtFトランスセクシュアルが、拡張器(ダイレーター)を用いて膣を伸展しサイズを維持する作業のこと。MtFのSRSの重要な術後処置。コメントで教えていただきました。ありがとうございました。