HRW−ジョグジャカルタ原則国連公布式パネル・ディスカッション・レポート
「性的指向と性自認の問題に対する国際人権法の適用に関するジョグジャカルタ原則」
HRW−21/11/2007ーSummary of Panel Discussion on the Yogyakarta Principles
目次(表題は訳者が付す)
2. パネル・ディスカッション
- 司会:ジョグジャカルタ原則の概観
- LGBT人権問題とジョグジャカルタ原則〜メアリー・ロビンソンMary Robinson(元国連人権高等弁務官)
- ブラジルにおけるLGBT人権促進の試み〜Ana Lucy Cabral(ブラジル外務省人権社会問題局長)
- アルゼンチンにおけるLGBT人権促進の試み〜Federico Villegas Beltr?n(アルゼンチン対外関係国際商務省人権局長)
- ウルグアイでのLGBT人権促進の試み〜Dianela Pi(国連ウルグアイ政府代表部・第3委員会第1書記)
- HIV/AIDS対策とジョグジャカルタ原則〜Miriam Maluwa(国連エイズ計画(UNAIDS)ジャマイカ・バハマ・キューバ代表)
- 世界の司法制度とジョグジャカルタ原則〜Philip Dayle(国際法律家委員会(ICJ)リーガル・オフィサー)
- ブラジルにおけるLGBT差別撤廃活動とジョグジャカルタ原則〜Sonia Correa(ブラジルAIDS学際連合(ABIA)/セクシュアリティ・ポリシー・ウォッチ(Sexuality Policy Watch)
- ジョグジャカルタ原則に対する国連の所感・国連人権高等弁務官の声明〜Craig Mokhiber(国連人権高等弁務官事務所)
- 欧州議会LGBT人権内部組織からの支持表明書簡
3. 参加者のコメント・質問
- チリ代表:ジョグジャカルタ原則の実践の問題=原則24・家族を構成する権利について
- オランダ代表コメント:オランダにおける外交・国内政策でのジョグジャカルタ原則採用の動き
- フランス代表質問:国連におけるLGBT組織の活動の問題
- Transgender Europe代表質問:ジョグジャカルタ原則の実践をめぐる今後の課題
4. 閉会
1. ジョグジャカルタ原則に関するパネルディスカッション:概要
日時
- 2007年11月7日 1:15 - 2:40pm 国連本部
- 国連総会第3委員会開催期間中
司会
- Boris Dittrich(HRW・LGBTプログラム・アドボカシー長Advocacy Director, LGBT Program, Human Rights Watch)
パネリスト
- メアリー・ロビンソンMary Robinson:Realizing Rights: the Ethical Globalization Initiative創設者、アイルランド共和国元大統領、元国連人権高等弁務官、ジョグジャカルタ原則署名者
- Ana Lucy Cabral大臣:ブラジル外務省人権社会問題局長(Director, Department for Human Rights and Social Issues, Ministry of External Relations, Brazil)
- Frederico Villegas Beltran:アルゼンチン対外関係国際商務省人権局長(Director, Human Rights, Ministry of Foreign Affairs, Trade and Worship, Argentina)
- Dianela Pi:国連ウルグアイ政府代表部・第3委員会第1書記
- Philip Dayle:国際法律家委員会(ICJ)リーガル・オフィサー
- Sonia Onufer Correa:ブラジル・エイズ学際連合(Brazilian Interdisciplinary AIDS Association)・セクシュアリティ・ポリシー・ウォッチ(Sexuality Policy Watch)・ジョグジャカルタ原則署名者
- Craig Mokhiber:国連人権高等弁務官事務所ニューヨーク支部長代理
主催NGO
- ARCインターナショナル(ARC International)
- センター・フォー・ウィメンズ・グローバル・リーダーシップ(CWGL)
- グローバル・ライツ(Global Rights)
- ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)
- 国際法律家委員会( International Commission of Jurists)
- IGLHRC
- ILGA
- International Service for Human Rights(ISHR)
2. パネルディスカッション
1. 司会:ジョグジャカルタ原則の概観
2. LGBT人権問題とジョグジャカルタ原則〜メアリー・ロビンソンMary Robinson(元国連人権高等弁務官)
メアリー・ロビンソンは、ジョグジャカルタ原則の署名者であることを誇りに思うとの感謝の言葉で、会議を開始した。ジョグジャカルタ原則は、長く国連の人権システムと各国政府に無視され続けてきた核心的な人権問題を取り扱うものだ。国際法・国内法でいかにこの問題が見落とされてきたかを示すため、氏はアイルランドでの人権弁護士、アイルランド大統領、そして国連人権高等弁務官としての自身の経験を振り返った。氏は、ジョグジャカルタ原則編纂へのマイケル・オーフラティMichael O’Flahertyの重要な貢献に謝意を表し、原則がまさにいま国連本部で公表されたのは相応しいことだったと指摘して、講演を締めくくった。
3. ブラジルにおけるLGBT人権促進の試み〜Ana Lucy Cabral(ブラジル外務省人権社会問題局長)
Ana Lucy Cabral氏は、ブラジル政府があらゆる分野の差別との戦いにコミットしていると、改めて確証した。ジョグジャカルタ原則は重要な文書であり、全世界のLGBTの人々の生活を改善するために必要なものだ。ブラジル政府は、LGBTの市民社会活動団体とともに、ホモフォビアと闘う「ホモフォビアのないブラジル(Brazil without homophobia)」という国民的プログラムを進めてきており、2008年にはこのプログラムを推進する公共政策会議を開催する予定である。ブラジルは、LGBT問題に関する政府の政策を伝えるうえで、NGOが計り知れぬ役割を果たすと認識している。ジョグジャカルタ原則の推進においても、同様である。ブラジル政府は、すべての多様な人々が、互いの人権を尊重し平和に暮らすことができる真の民主主義のために闘っており、この目標はブラジルの外交政策にも影響を及ぼしている。Cabrail氏は、ジョグジャカルタ原則の時宜を得た刊行を歓迎し、ブラジル政府がポルトガル語版を出版することを告知して、講演を終えた。
4. アルゼンチンにおけるLGBT人権促進の試み〜Federico Villegas Beltran(アルゼンチン対外関係国際商務省人権局長)
Federico Villegas Beltran氏は、アルゼンチンがLGBT問題にアクティブな外交政策を展開してきたと述べた。氏は、性的指向と性自認を理由とした差別は特に複雑であるが、すべての人間の人権が尊重されることは、公正で民主的な社会に不可欠なことであると強調した。氏は、アルゼンチンが、国連人権理事会に対して、LGBTの権利も含むあらゆる人権侵害について考慮するよう促していることに言及した。ベルトラン氏は、アルゼンチンには人権侵害の歴史があったことを認めたが、現在は人権擁護に献身的であると強調した。氏は、このコミットメントの一例として、2004年における反差別のための国家的行動計画National Action Plan (NAP)の発展を指摘した。独立した専門家たちが、差別根絶のための200以上の個別の計画(同性ユニオン制度を禁じる地域・地方の法規の撤廃も含む)を含むNAPを展開した。氏は、ジョグジャカルタ原則が扱う問題の多くがNAPの焦点でもあり、政府により改変されること無くそのまま採用されたと述べた。氏は、「寛容」「不寛容」という言葉を、LGBTの人権について用いることを止めよう、という呼びかけで、自らの発言を締めくくった。辞書の定義は、彼ら彼女らの権利に「寛容」であるとは、我々が「忍耐に苦しんでいる」ことを意味する。−だが、そうではない。その代わりに、「多様性の尊重」という語句をできる限り使ってゆこうと提言した。
5. ウルグアイでのLGBT人権促進の試み〜Dianela Pi(国連ウルグアイ政府代表部・第3委員会第1書記)
Dianela Pi氏は、ウルグアイを代表し、ウルグアイ政府は目下ジョグジャカルタ原則を分析中だが、完全にこの文書の精神を支持すると述べた。ウルグアイは、国連人権委員会と、その後身である、性的指向を理由とした差別との格闘とLGBTの人権の促進を追求してきた人権理事会における先駆的動きを、常に支持してきている。それでもなお、Pi氏は、ウルグアイがいまだこの事項を克服するうえで数多くの問題を抱えていることを認め、ジョグジャカルタ原則は、ウルグアイ政府を助ける重要な文書だとした。ウルグアイ政府は、差別問題についての委員会を設立し、レイシズム、ホモフォビア、差別との戦いへの国家政策を提示させることとした。そこでは、LGBTに関する問題も対象とされることとなる。性的指向に焦点を当てたメルコスール・ワーキンググループ第9回会議では、ウルグアイがこのアジェンダに対しジョグジャカルタ原則を提起したのである。
6. HIV/AIDS対策とジョグジャカルタ原則〜Miriam Maluwa(国連エイズ計画(UNAIDS)ジャマイカ・バハマ・キューバ代表)
Miriam Maluwa氏は、人権とHIV/AIDSの相関関係を取り扱ってきた活動成果の一部を分け与えてくれた。氏らの調査は、男性間の性行為はどこででも行われており、また多くの男性が女性とも性行為を持っていることを明らかにした。同性間関係を犯罪化すると、人々は健康管理のためのさまざまな選択や治療を積極的に避けるようになり、その結果、健康上の危険の増大がコミュニティ全体に広まることになる。健康の権利に悪影響を及ぼすのに加え、これらの関係の犯罪化は、法にとって問題がある。なぜならそれは、人間が他の人権を享受する可能性も密かに蝕むからだ。2005年の時点で、いまだ約70カ国がこの種の関係を犯罪としている。氏は、同性愛行為の有罪とするのは、HIV/AIDS対策の効果的な方法ではないという、国連人権委員会の調査結果を参照した。氏はまた、HIV/AIDSに関する、国連の拘束力のない国際的ガイドラインを参照した。UNAIDSが運営する委員会は、「MSM」を含む[HIV感染の]影響を受けた主要なグループ・人間集団にターゲットを絞ったプログラムの展開を、「HIV予防のための本質的な政策の1つ」として呼びかけたことがある。UNAIDSは、ジョグジャカルタ原則を支持する。
7. 世界の司法制度とジョグジャカルタ原則〜Philip Dayle(国際法律家委員会(ICJ)リーガル・オフィサー)
Philip Dayleは、LGBT問題に関する人権についての司法組織における近年の展開について、概観を与えてくれた。経済社会理事会(ECOSOC)、子どもの権利委員会、恣意的な拘留に対する国連ワーキンググループ、国連人権委員会などのさまざまな国連機関が、差別されてはならない自己同一化されたカテゴリーとして「性的指向」に言及している。ジョグジャカルタ原則は、これらの展開を統合し、「適用可能な国際人権法の権威ある解釈」を提供する。いま、立法に関わる議会議員、裁判官、弁護士、アクティビストは、ジョグジャカルタ原則を国内的・国際的な両方の分野で実践し、人々の日常生活に積極的な影響を与えるために原則を用いてゆく挑戦を迫られている。
8. ブラジルにおけるLGBT差別撤廃とジョグジャカルタ原則〜Sonia Correa(ブラジルAIDS学際連合(ABIA)/セクシュアリティ・ポリシー・ウォッチ(Sexuality Policy Watch)
Sonia Correa氏は、ジョグジャカルタ原則を、ブラジルの歴史的な文脈において論じた。氏は、いままでに取り組まれて来た性的指向と性自認を理由とした差別に対する戦いを概観し、近年ブラジルでは社会的な対話が開かれ、LGBTのネットワークがより大きな可視性を獲得していると述べた。しかしながら、今日においても、LGBTの人々に対する差別は、家族や社会的ネットワークの中に広く行き渡っている。まだなされていない多くの仕事があり、グラスは半分空と言うべきか、半分満たされているというべきか、疑問であるところだ。ジョグジャカルタ原則は、ブラジルにとって重要なものである。なぜなら、ジョグジャカルタ原則は、継続している公的政策としての戦いを認可する。Correa氏は、ジョグジャカルタ原則はすでに2000部がブラジル語で配布されており、ブラジルの弁護士は原則を検証するセミナーを開催していると述べた。
9. ジョグジャカルタ原則に対する国連の書簡・国連人権高等弁務官の声明〜Craig Mokhiber(国連人権高等弁務官事務所)
国連人権高等弁務官事務所のCraig Mohkiber氏は、この傑出したイニシアティブと、ジョグジャカルタ原則の作成に関わったすべての人々を讃えた。氏は、先の発表者諸氏に同意し、LGBTの権利は中核的な人権であるにも関わらず、無視されてきたと述べた。氏は、ジョグジャカルタ原則の署名者の半数近くが国連人権システムに関わる人権問題専門家であることに非常に誇りを持っていた−これは、国連内部で、これがなされるべき重要な仕事だという広範な認識があることを示している。氏は、ジョグジャカルタ原則が、ただ名目的ではなく、極めて実践的な使途があることを特に強調した。そして、国連人権高等弁務官ルイーズ・アルブールLouise Arbour氏からの声明を読み上げた。
国連人権高等弁務官の声明は、次のことを強調していた。いかなる者も、その民族・宗教・社会的地位を理由にその人権を拒否されることは考えられないのとまさに同じく、我々は、性的指向または性自認を理由に同じことをしようとするいかなる試みもまた拒否せねばならない。ジョグジャカルタ原則は、この基本的な信条を時宜を得て思い出させてくれる。各国政府は、その法的庇護のもとにあるすべての個人を尊重し、あらゆる暴力・侵害事件を捜査し起訴する法的義務を持つ。アルブール氏の考えでは、文化的な多様性の尊重は、合意のある成人間の無害な私的関係を有罪化することにより生命、安全、プライバシーに対する基本的な権利を侵害する法の存続を正当化するには不十分だ。国連人権高等弁務官は、人権高等弁務官事務所が、性的指向または性自認による区別なくすべての人間の人権を護り促進することに確実にコミットすると繰り返した。
10. 欧州議会LGBT人権内部組織からの支持表明書簡
司会は、欧州議会のLGBT人権問題内部組織の長Michael Cashman氏から、会議を支持する書簡を受け取っていることを伝えた。欧州議会の内部組織は、ジョグジャカルタ原則を承認し、パネル主催陣に世界各国政府にジョグジャカルタ原則に対する関心を高めるための最善の努力を尽くすことを望むとのことである。
3. 参加者コメント・質問
1. チリ代表:ジョグジャカルタ原則の実践の問題=原則24・家族を構成する権利について
チリ代表は、チリ政府はジョグジャカルタ原則を熱心に分析中だが、原則24の家族を構成する権利に関して困難に直面している、と述べ、この原則を推進してゆくための鍵となる議論、特に養子縁組と人工授精に関する議論へのアドバイスを求めた。
Sonia Correa氏は、それが議論を呼ぶ原則だということを認めたが、しかし自家族を構成する権利は国際法に関連しており、すべての人間に適用されると応じた(結婚の権利とは異なり、家族を築く権利は両性の言葉で定義されない)。ジョグジャカルタ原則の起草者は、意識的に原則に結婚の権利を組み入れないことを選んだ。氏はまた、ラテンアメリカの他の保守的な社会で達成されてきた改革に注目するよう示唆した。それは、同性カップルの養子縁組政策と、年金その他の利益の獲得について、ある程度の現実主義を示してきたものだ。そのような改革のためには、まず、LGBTと保守的な集団の間に対話を築くことが必要である。そうして、差別撤廃やプライバシーの権利のような、基本的権利についての議論を始めることができるのだ。
Philip Dayle氏は、ジョグジャカルタ原則は国際人権法の「権威のある解釈」であり、 抱負としての文書ではないと付け加えた。ジョグジャカルタ原則が抱負に過ぎないのなら、おそらく結婚の権利が含められていただろう。これは、他の責任行為が、人権法が発展させられるように発展させられるべきだという事実を排除しない。それはジョグジャカルタ原則の改訂で取り上げられるべきだろう。
2. オランダ代表コメント:オランダにおける外交・国内政策でのジョグジャカルタ原則採用の動き
オランダ代表は、主催側に対し、時宜を得た会議の開催について謝意を示し、先日オランダ政府が議会に白書を発表したが、LGBT問題に関する章の作成にはジョグジャカルタ原則が採用されたと述べた。代表は、ジョグジャカルタ原則を外交政策と同様、国内でどのように採用してゆくかの秘けつが必要だとした。
3. フランス代表質問:国連におけるLGBT組織の活動の問題
フランス代表は、ジョグジャカルタ原則を押し出してゆくことに支持を示したが、LGBT諸組織が国連で差別に苦しんでいることに言及した。氏はジョグジャカルタ原則が、この問題への支援にどのように活用しうるかを尋ねた。パネルの2、3のメンバーが、いくつかのLGBT組織が現在ECOSOCの協議資格を持っていることを指摘し、また英国代表が、英国政府が現在 ECOSOCのNGO委員会のメンバーであり、ECOSOCの認可申請で困難に遭っているLGBT組織があれば、喜んで支援すると助言した。
4. Transgender Europe代表質問:ジョグジャカルタ原則の実践をめぐる今後の課題
Transgender Europe代表は、 氏がドイツのパスポートを得るために不妊手術を求められていることについて、どうすればよいかと質問した。国連人権高等弁務官事務所から、まず人権告訴メカニズムに訴えるのがよいと示唆があった。
議論は、ジョグジャカルタ原則を日常生活でLGBTを直接的に支える手段へと変えてゆく重要性へと進んだ。ブラジルLGBT連合とILGAのある代表は、ジョグジャカルタ原則は国際法の専門家によって作成されたが、法の専門家ではないLGBTに利用しうるものにされる必要がある、と述べた。Cynthia Rothschild (CWGL)は加えて、LGBTコミュニティにおける人権侵害の経験は「一様」ではない、さまざまな人権侵害の経験が存在することを認識し、ジョグジャカルタ原則を実施してゆく適切かつ効果のある政策が展開されることが大切だ、と指摘した。
司会が、このプロジェクトが次に目指すものの1つは、各国政府とNGO双方にジョグジャカルタ原則の実施を助ける、実践主義的な手段の発達である、と助言した。