アンジェリーナ・ジョリーの「もう女性とはやらない」宣言に思うこと

こんなニュースを見た。

アンジェリーナ・ジョリーレズビアンは卒業?
2007/08/16シネマトゥデイ


かつては同性の恋人がいたアンジェリーナ・ジョリーだが、ブラッド・ピットと出会ってからは女性を恋人にすることはやめたそうだ。ジョリーは大衆紙ザ・サン」で「私は自分がバイセクシャルであることを隠したことはないわ。でもブラッドと付き合い始めてから、SMやレズビアンに走ることはなくなったの」と語っている。


元記事は、ヘラルド・サンのこの記事だ(と思う)。

ブラット、ジョリーのレズビアン性欲を飼い馴らす(Brad tames Jolie's lesbian libido)


ジョリーはピットに満足しているので、女性[との恋愛]を止めた。
彼女のかつてのレズビアンの恋人は長続きはしないと語る。
Jolie so satisfied with Pitt she's giving up on women
Former lesbian lover says it won't last


アンジェリーナ・ジョリーは、パートナーのブラット・ピットに満足しているので、もう女性や変わったセックスはしないと宣言した。
ANGELINA Jolie claims she is so satisfied with her partner Brad Pitt that she is giving up women and kinky sex.


「わたしはバイセクシュアルであることを隠したことはないわ」彼女はフランスのPublic誌に語った。
"I have never hidden my bisexuality," she told France's Public magazine.


「でも、ブラットと一緒になってから、女性は止めたの。もう生涯それ[同性愛]やS&Mをやることはないわ」
"But since I've been with Brad, I abandoned women. Now there is no room for that or S&M in my life."


しかし、ジョリーのかつてのレズビアンの恋人であるモデルのジェニー・シミズは、ブラット・ピットでもジョリーのレズビアン性欲をさほど長く飼い馴らしておけるとは考えていない。
However, model Jenny Shimizu, Jolie's former lesbian lover, doesn't think even Brad Pitt can tame Jolie's lesbian libido for too long.


「彼女は危険やダークな領域での戯れを愛するの」40歳の[?]シミズはイギリスのNews of the Worldに語った。
"She loves danger and dabbling in the dark side," Shimizu, 40, told Britain's News of the World.


「アンジェリーナは信じられないほどレズビアンが好き[?]。それこそに興奮するの。1人の男と幸せな家族を演じることじゃなくてね」
"Angelina is an unbelievable lesbian lover. That's where she gets her kicks - not playing happy families with one man."


しかし、Public誌は、ピットと一緒で幸せでいる、なぜなら彼女を信じてくれるから、というジョリーの言葉を引用している。
But Public magazine quoted Jolie as saying she is still very happy with Pitt because he believes in her.


「彼はわたしが話したいと思う誰とでも話させてくれる」彼女は言う。「彼はわたしに完全に盲目的な信頼を置いているの」
"He lets me talk to whomever I want," she said. "He has complete blind faith in me."


ジョリーは、1996年にflick Foxfireで出会ったモデルのジェニー・シミズと長く肉体的なレズビアン関係を持っていた。
Jolie had a steamy long-term lesbian relationship with model Jenny Shimizu, whom she met on the set of the 1996 flick Foxfire.


…こちらも、記事自体がツッコミどころ満載な気もするが。


アンジェリーナ・ジョリーが誰と幸せに暮らそうとどんなセックス観を持とうと、それに元恋人がどう難癖をつけようと、知ったことじゃないんだが。


ここで言っていることは、ジョリーはバイセクシュアルだが、ブラット・ピットとのモノガマスなパートナーシップを大事にする、ということだろう。
「浮気はしない」と言うことと同じだ。
なぜ「もう生涯同性セックスもSMもやりません」と言わなきゃ(または言わされなきゃ)ならないのか。このセリフだと、じゃあ「ブラピの盲目的信頼」のもと、男とは浮気し放題ってわけ?と突っ込みたくなるではないか。
―問題になっているのはモノガミーであって、モノセクシュアリティじゃないだろう。


だいたい、彼女は「レズビアン」であったことは一度もないんじゃないか?


こじつけかもしれないが、バイセクシュアルに対する大きな偏見が、またここにもあるような気がする。
バイセクシュアル」=「両性に性的関心を持つ」=「性的に過剰である」という偏見だ。


僕は以前、夫がバイセクシュアルだと知った女性が不安を相談をしている掲示板を読んだことがある。夫が滅多に遭遇することがないセクシュアリティだったことを知ったその人の驚きは、たしかに大きかっただろう。しかし、その人の不安が、僕には何だかヘンだ、と思えた。その女性は、「夫は同性と浮気をするかもしれない」と思っていたようなのだ。


夫がヘテロセクシュアルだと思っていた間は何の疑問もなく信じていた誠意を、なぜバイだと分かったとたん疑い出すのか。明らかにポリセクシュアリティポリガミーの混同があり、偏見がある。


前から興味があったのだが―って、「興味」を持つようなことか分からないが―バイセクシュアルは、レズビアン・ゲイに浴びせられる「気持ち悪い」「自然に反する」といった偏見からは、やや免れているように見える。だが、逆に彼らには、「信用できない」「道徳に反する」という偏見につきまとわれているようだ。このあたりに、ホモフォビア(同性愛恐怖症)とは違うバイフォビアの独特の傾向がある。


周知のように、ゲイの間でもバイへの偏見は強い。「信用できない(いつ異性に行くか分からない)」に加え、「片足安全圏(=異性愛)に突っ込んでいる」という謂れのない怒りを向けられる。
バイセクシュアルは、異性愛者からも同性愛者からも偏見を持たれるのだ。モノセクシュアルによるポリセクシュアルの無理解と抑圧である。


どういう背景があっての発言かは知らないが、ジョリーはただ「もーブラピ一筋〜」とのろければよかったんであって、「レズビアン・SMはもう止める」といった発言がレズビアンないしバイセクシュアル女性に対するどんな偏見を許すかを、半歩ぐらいでも考えてほしかった、と思う。


世界一有名なバイセクシュアル女性であるアンジェリーナ・ジョリーに、それを配慮するノブレス・オブリージュを求めるのが妥当か否か、僕には分からないけれど。


あと、シネマトゥデイの方の「レズビアンは卒業」って、ちょっと日本的?