イラン人ゲイ青年メフディ・カゼミさんの現在


19歳イラン人ゲイ、2月26日オランダから英国へ送還、イランへ強制送還の恐れ
イラン人ゲイ、メフディ・カゼミさん強制送還問題(オランダ→英→イラン)・続報



オランダから、彼の難民申請を却下した英国へ強制送還されようとしていた19歳のイラン人ゲイ青年、メフディ・カゼミさんについてのエントリを書いてから、1か月以上が過ぎました。


僕の目には、先の見えない・読めない展開が連続した一ヶ月(正確には、前エントリの日付の2月末から3月中旬にかけてですが)でした。


その間僕は身辺の問題に引きずり回され、続くエントリを書くどころかほぼブロガー人格消滅していたのですが(ブロガー失格ですね)、他ブログ・サイトさんのお陰で、ニュースを追うことはできました。


メフディさんのことについて関心を持っている人は、ごらんになっているはずですが−


メフディさん強制送還問題を、英国政治とくに移民・難民認定問題の該博な知識にもとづき、詳細に追跡・分析して下さったnofrillsさん
[tnfuk]-2008年3月9日-イラン人女性難民認定ならず&イラン人男性オランダで裁判所の判断を待つ
[tnfuk]-2008年3月12日-イラン人19歳男性、英国へ送還へ(記事リンク集つき)
[tnfuk]-2008年3月14日-イラン人19歳男性について、一応の朗報


関連ニュース・資料を逐一紹介・翻訳して下さったデルタGさん
デルタG -2008年3月2日-イラン人ゲイ、メフディさんはロッテルダム拘留所に!
デルタG -2008年3月7日-生きるか死ぬかの決断
デルタG -2008年3月8日-メフディさんをめぐる問題、欧州議会へ
デルタG -2008年3月9日-ペガーさん、強制送還の危機に再度直面!
デルタG -2008年3月9日-ペガーさんの肉声、メフディさんの動画ニュース
デルタG -2008年3月9日-メフディさん、19日(水)に判決予定
デルタG -2008年3月11日-「おとなしくしていれば、同性愛者はイランに帰れる」
デルタG -2008年3月12日-メフディさん、イギリスへ送還決定
デルタG -2008年3月14日-サイモン・ヒューズ「同性愛者をイランに送り返すべきではない」
デルタG -2008年3月14日-欧州議会にてメフディ・ケースの決議案採択
デルタG -2008年3月14日-メフディさん、英国への強制送還取消に


また、メフディさんに関する逐次ニュースは、paulcanningさんのブログでも、詳しく追うことができます。
paulcanning – Mehdi Kazemi updates



これらのサイトを参考に、現在に至るまでの経緯を、もういちど確認しておきたいと思いますが−


英国での難民申請を却下され、オランダに逃れて拘束されたメフディさんは、
当初2月26日に予定されていた送還は見送られたものの、
3月11日、オランダ法廷はメフディさんの英国送還を決定。
そのわずか数日前(3月6日)、2007年8月に国際的な注目もあってかイラン強制送還を免れた在英レズビアン難民ペガー・エマンバクシュさんの難民不認定が発表され、この連打は注目するメディアに並ではない衝撃を与えたと思います。
(関連記事 ゲイジャパンニュース-2008/03/08-イギリス イラン人レズビアン強制送還の恐れ、ゲイ男性も)


しかし、nofrills さんのエントリにあるように、英国でもさまざまな政治家が、この件を問題視したようです。


3月初、英国緑の党Jean Lambert議員 *1らの政治家が、欧州議会司法・自由・安全務総局委員(European Commissioner for Freedom, Justice and Security)および英蘭首相宛に、メフディ問題に関する書簡を送付(デルタG関連エントリ)。


これを受けてなのか、欧州議会は3月12日、


欧州人権条約(ECHR)欧州連合基本権憲章難民条約(難民の地位に関する条約)難民議定書(難民の地位に関する議定書)欧州連合理事会指令2004/83/EC(第三国国籍者又は無国籍者の、難民又は他の方法による国際的保護を必要とする者としての認定及び地位の最低基準並びに与えられるべき保護の内容に関する欧州連合理事会指令2004/83/EC)*2理事会規約No 343/2003ペガー・エマンバクシュの件に関する欧州議会議長による2007年9月10日付英国首相宛書簡*3欧州議会議院規則115(5)
に基づき、


メフディさんの運命を深刻に捉え、
性的指向を理由とした迫害を難民庇護の条件と見なし、
EUの法・条約の下に拷問・処刑の恐れのある第三国へ送還せず、
彼をEU領内に難民として受け入れる合意を見出すことを求める


決議を採択しました。
メフディ・カゼミの件に関する欧州議会決議
(デルタG関連エントリ)


そして、3月14日、英国内務大臣ジャッキー・スミス氏により、メフディさんの難民申請結果を「見直す」という声明が出されました([tnfuk]関連エントリ
)、


ここまでが、現状です。


2月下旬、はじめてメフディさんのニュースを知ったとき、僕が驚いたのは、とにかく、ネットを通して見るかぎりメフディさんの問題が「知られていなさ過ぎる」ことでした。
英国送還(そしてそれに次ぐイラン送還の可能性)を目前に、19歳の少年がこのまま黙殺されてしまうのかと、ゾッとしたのを憶えています。
(実際には、GayasylumukのOmar Kuddusさんや、ロンドン在住のおじさんが彼を支えていたわけですが)


しかしそれが、3週間のほどの間に欧州議会で取り上げられるに至り、英内務省の「見直し」声明へとつながったというのは、ひとりの人の生命の危険が見捨てられるわけではない、人権問題が正当に顧られることはまだ可能だ、と感じさせるものがありました。



現在、メフディさんの状況は、メフディさんの支援サイト(3月12日より開設)で追うことができます。
Save Mehdi Kazemi


上掲の paulcanning – Mehdi Kazemi updatesOmar KuddusさんのGay Asylum UK(Yahoo Groups)や、オランダの支援サイトHelp Seyed Mehdi Kazemiオランダ語ですが、中心になっていると思われるJetさん−早くからオランダで署名サイトを立ち上げていた人だと思いますが−の記事は英語で読めます)へも、ここのリンクから飛べます。署名サイトのリンクも、ここにあります。


しかし、paulcanningさんの4月1日付記事によると、メフディさんは月曜日(つまり4月7日か)に、オランダから英国への送還されるようです。
paulcanning - Mehdi Kazemi update: April 1st - may be back in UK Monday


メフディさんはペガーさんの難民認定申請を却下した英国政府を信頼しておらず、オランダに留まることを望んでいます。オランダの左派政党D66(民主66党)の議員 Boris van der Ham氏が彼をサポートし、議会での交渉を続ける模様ですが、結果がどうなるか、分かりません。
※4月4日追記
英国送還が決定したようです。ニュースによれば金曜日(つまり本日4日)とのこと。
paulcanning4月3日付エントリ
Pinknews.uk4月4日付ニュース


nofrillsさんのエントリで示されているように、自由民主党(Liberal Democrats)議員サイモン・ヒューズ氏は、メフディさんが英国に戻ったなら、彼の難民認定再申請を専門家とともに支援すると政党の公式サイトで表明しています。
これは、メフディさんにとって、よい条件となるでしょうか。


そして、ペガーさんの最後の難民申請の試みは、どんな結果になるでしょうか。


Nofrillsさんの「難民申請却下事例」のアーカイヴを見ていると、決して楽観はできないように思われます。


ただ、メフディさんやペガーさんの心身の健康を願いながら、また次の知らせを待つしかありません。


ですからここでは、今は小さなコメントを書くに留めておこうと思います。


メフディさんの件は、2つの日本のメディアも報道しました。


AFPBBNews−2008年03月14日−同性愛者のイラン人男性、強制送還を一時回避、英当局が猶予

西日本新聞−2008年03月14日−同性愛理由に難民申請 「帰国すれば死刑」 在オランダのイラン男性


日本の一般メディアでも取り上げられたというのは、高く評価していいことだと思えます。
が、僕は、AFPBBニュースの記事に添えられた写真に、なんだか引っかかりました。


「ロンドンのイラン大使館前で、絞首刑のまねをして、抗議する同性愛者の人権活動家」というキャプションとともに、2005年10月4日撮影の写真が載っています。


2005年というと、恐らく、イランで2人の少年が同性愛行為を理由に(恐らく)絞首刑となった、あの事件に関連する写真なのだと思います(確証はありませんが)。
関連記事:ゲイジャパンニュース-2005/07/30-イランで10代の同性愛者二人が絞首刑に


公開処刑の残酷な写真がネットで流れたこともあり、世界に大きな衝撃を与えました(今回のメフディさん問題でも、この事件に関する写真が方々のブログ・サイトで使われています)。


でも、なぜ、引用されてくるのが、2005年のこの事件の写真なんでしょう?


3年前まで状況をさかのぼることができるのなら、日本のメディアが真っ先に思い出すべきことは、2005年に日本政府もイラン人同性愛者の難民認定申請を受け入れず、強制送還しようとしたということのほうではないでしょうか

チームS・シェイダさん救援グループ


イラン人の同性愛者が生命の危険に脅かされて難民とならざるを得ない理由は、もちろん、同性愛行為を処刑対象とする、イランの今の刑法にあるでしょう。


でもここで問題となっているのは、そうして逃れてくる人間を庇護する義務を持つ難民条約批准国が、曖昧な理由でその義務の履行を拒否し、その人たちの生命を危険にさらそうとしている、そのことではなかったでしょうか。


人権を侵害する国家が存在することは、大きな問題です。
が、人権擁護をむねとし、そのための条約・規約を受け入れている国が、実際に庇護を必要とする人たちを顧ない、それも同等に問題です。


メフディさん問題を取り上げるにあたり、日本のメディアが素でこれを忘れているとしたら、あまりにおめでたい忘却ぶりだといわざるを得ないし、分かって黙っていたとしたら−こういう言い方がいいのか、分かりませんが−悪質といわれても仕方がなくないか、と思うのです。


これは人権が蔑ろにされている国・社会の問題だけではありません。
人権尊重が強調され、同性愛行為を犯罪化する宗教文化も持たない国・社会で行われていることの問題、僕たちが承認している法と制度の問題なのです。


僕自身が承認している法や制度によって、本来守られるべき人の生命や尊厳が蔑ろにされようとするとき、なんらかのかたちで、それが不当だという悲鳴を上げる中の1人でありたいと思います。
何にもならないことかもしれませんが、法によって自分の生命と尊厳を守る権利を持っていたい僕は、少なくともそう望んでいるのです。

*1:この方の名を上げたのは、たまたま僕がこの欧州議会宛書簡をオンラインで確認したのが緑の党のサイトだったからで、別にこの人が書簡送付の中心人物だったからといった理由ではないです。この書簡のイニシアティブをとったのが誰だったのか、現在のところ僕は情報を持っていません。

*2:European Commission - Freedom, Security and Justice - The European Union clarifies what it means by refugee and subsidiary protection参照。

*3:ペガーさん強制送還反対-2007年8月31日-EUでの動き参照。