ネパールLGBT団体、ジョグジャカルタ原則普及に努力


バクティさん支援ブログ


同性の恋人とともにネパール軍を解雇され、現在、軍を相手に訴訟を行ってる女性兵士バクティさんへの支援が呼びかけられている。
詳細は上掲の支援ブログを参照されたい。


ここで取り上げるのは、バクティさん支援とは(無関係ではないが)少し異なることだ。
ネパールでバクティさんを支えている団体として、2001年に創設されたLGBT団体Blue Diamond Society(BDS)が挙げられている。
その活動については、創設者・リーダーであるSunil Pant氏による次の論文に詳しい。
Open Society Institute (0SI)-Public Health Program - Blue Diamond Society


ウェブサイトURLが切れているので、アクセス情報はこちら。
idealist.org-Blue Diamond Society (BDS)


LGBTの状況はおろか、そもそもネパールという国について何も知らない僕であるが、BDSの活動(それには限界もある*1とはいえ)には強く関心を惹かれるものがある。その一つが、ジョグジャカルタ原則を内外に認めさせてゆこうとする積極的な努力だ。


性的指向と性自認の問題に対する国際人権法の適用に関するジョグジャカルタ原則


今年3月に公布されて以来、ヒューマン・ライツ・ウォッチなどにより普及と運用の努力が進められているジョグジャカルタ原則だが(このエントリと、このエントリ参照)、ネパールでのBDSの取り組みは特筆すべきものとして、ここで紹介しておきたい。


まず、ジョグジャカルタ原則のネパール語訳。8月11日には、ネパール国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)カトマンズ支局長を招待し、ジョグジャカルタ原則ネパール語版の公布式を行っている。この、人権高等弁務官事務所カトマンズ支局Johan Olhagen氏の公布式での演説が、ネパールOHCHRサイトの資料に入っている。
Inaugurate "The Yogyakarta Principles" translated into Nepali(HTML版)


恐らく、バクティさんの解雇問題についても、ジョグジャカルタ原則の適用が主張されていることだろう(バクティさんの件は、「12:労働の権利」、軍・警察を含む公的職務から排除されない「25:公的生活に参加する権利」、そして復職を要求する「28:効果的救済と補償に関する権利」が該当する)。


もう1つは、国連合同エイズ計画UNAIDSのExecutive Director、Peter Piotへの、ジョグジャカルタ原則支持を求める書簡。UNAIDSが世界でのHIV/AIDS予防・治療対策の中で、ジョグジャカルタ原則の遵守を率先していって欲しいという要請だ。
Gays Without Bordersに、その全文が掲載されている。


Gays Without Borders−Nepal, Blue Diamond Society: Letter to Peter Piot, UNAIDS Requesting to Endorse "The Yogyakarta Principles"


性的少数者の権利や安全の問題は、「個別の文化」の問題に帰されがちだ。ジョグジャカルタ原則は、「人権の普遍性と、あらゆる性的指向性自認の平等」を徹底して貫くことで、文化的背景から生じる性的少数者の権利の阻害を、普遍的な人権問題として扱う土台を作った。
文化的な性的少数者差別を抱える国・地域では、ジョグジャカルタ原則は、差別を解消してゆくための明快かつ説得力のある手段になりえるのだ。


国の中と外でジョグジャカルタ原則の普及を計ろうとするネパールのBDSは、ジョグジャカルタ原則の可能性を的確につかみ、利用してゆこうとしていると言えるだろう。国連や国際NGOが何かやってくれるのを待つのではなく、自分たちの手でジョグジャカルタ原則を「育てる」努力をしているのである。
この努力が無駄にならないためには、ジョグジャカルタ原則がもっと国際的関心を集める必要があるが。
こうした地道な動きに、今後も注目してゆきたい。

*1:ゲイ、MtF中心で、レズビアン等女性が周縁化されている、といった点。バクティさん支援ブログ参照。