10月はLGBTの歴史の月〜GLBT History Month


GLBT History Month
LGBT History Month-UK


10月に入り、こんなサイトを見かけるようになった。
知らなかったが10月は英米で「GLBT歴史月間」なんだそうで、LGBTの歴史に関する教育・啓発キャンペーンが行われるらしい。
(USの方が「LGBT」じゃなく「GLBT」なのは、なにか流派の違いでもあるんだろうか?)


なぜ10月かというと。
りょうたが生まれたのが10月だからだ。
違−う。


GLBT History Month USの解説−

 1990年代、教師そしてコミュニティの指導者たちは、GLBTの歴史を讃え、教える月があるべきだと考えました。彼らは10月を選びました。なぜなら公立学校の授業期間中であり、「カミングアウトの日(10月11日)」のような今ある慣行が、この月に来ているからです。


 「GLBT History Month」は、GLAAD、 HRC、 the National Gay and Lesbian Task Forceその他関連組織に支持されました。オレゴン知事John Kitzhaberは、1995年10月をレズビアン・ゲイ歴史月間(Lesbian and Gay History Month)とする宣言をしました。そして1995年7月、the National Education Associationは、このコンセプトの支持を決議をしました。1996年、マサチューセッツコネチカット知事、ボストン・シカゴ市長も、10月をGLBT History Monthとしました。


 2006年、Equality Forumの指導者委員会、全国知事委員会(National Board of Governors)が、Black History MonthにWomen's History Monthに倣って、GLBT History Monthに協調することを、満場一致で決議しました。


目標

 GLBT History Monthの目標は、GLBTの歴史を教え、ロール・モデルを与え、コミュニティを構成し、GLBTコミュニティが国内的また国際的に行った貢献を強調することです。


イコンの選出

 1ヶ月の1日に1人、31のGLBTイコンが選ばれました。Equality Forumは内外のリーダーたちに、候補を上げてくれるようお願いしました。候補として上がったのは、故人または存命の、その研鑽した分野で国民的英雄として傑出している人物、あるいはGLBT市民権利運動の中で傑出している人物たちです。GLBT History Month 2007の共同議長−Metropolitan Community Churches (MCC)議長のNancy Wilson牧師、イェール法科大学のKenji Yoshino教授−が、これら候補者から31人のイコンをEquality Forum指導者委員会に推薦しました。


Equality Forumについて

 Equality Forumは、教育に焦点を当てたGLBT市民権利の国内・国際組織です。Equality Forumは、GLBT History Monthと共同し、ドキュメンタリー映画を製作し、インパクトの高い主導を行い、最大の国際GLBT市民権年次フォーラムを開催します。http://www.equalityforum.comをご訪問ください。


目下USサイトでは、1日1イコンでこの「31イコン」が紹介されていて、LGBT History Month-UKやGay.comにもリンクされている。昨日10月4日はアレキサンダー大王、今日はアスリートのBillie Jean Kingだ。
31日31イコンのラインナップは、以下の通り。


Leonard Bernstein/Annie Leibovitz/Angela Davis/Alexander the Great/Billie Jean King/Pedro Almodoar/Bessie Smith/Klaus Wowereit/Susan Sontag/Gore Vidal/Lily Tomlin/Peter Gomes/Mary Edwards Walker/Frederick II/Virginia Uribe/Frank Kameny/Nancy Mahon/David Hockney/Audre Lorde/Cary Grant/Renee Richards/Sherry Harris/John Maynard Keynes/Gertrude Stein/Zhou Dan/Carolyn Bertozzi/Cole Porter/John McNeill/Florence Nightingale/Billy Sipple/Leonardo da Vinci


うーん、予想はつくが、なんか無理があるラインナップだ。
アレキサンダー大王やレオナルド・ダヴィンチのような前近代の人物をLGBTと呼んで良いのか?だいたいアレキサンダー大王が合衆国の「national hero」か?まあ、ペドロ・アルモドバルが入っている時点で完全にインターナショナルになってるわけだが、「『ヘテロアメリカ大統領』とは誰も言わないのに、『ゲイの映画監督』とは言われたくない」と言っているアルモドバルは、イコンに祭り上げられるのを承知するのかな、一応断ってんのかな、と気になってしまう。


2006年の31イコンはこちら↓で見ることができる。
GLBT History Month 2006


LGBTの歴史」という概念が可能なのか、僕には分からない。
LGBTセクシュアルマイノリティの枠組みや概念じたい、ほんの10年前と比べても、大きく変わっている。
少なくとも、性科学で「同性愛」の概念が成立した近代以降でないと、枠組み概念が整合的に一貫・連続した「LGBT史」は編めないんじゃないか、と思う。
それ以前の同性愛やトランスジェンダーで知られる人物を、現代的な意味でのLGBTと呼ぶことはできないだろうし、歴史の中のさまざまな次元での同性愛文化・トランスジェンダー文化は、それぞれの歴史的なコンテキストで個別に考えるべきだろう。
同性愛文化・トランスジェンダー文化は、時代や地域のセクシュアリティ文化全体のありようから析出されてくるものなのであって、それ自体で独立して存在するものじゃないのだと思う。そこから「同性愛だけ」を取り出して単線的に「歴史」をつなぐのは、むしろ同性愛・同性愛者を「民族」のように特殊視することになりかねないだろう。


どうせ歴史的考察をするなら、人間のセクシュアリティ文化は歴史を通して常に多様な同性愛文化・トランスジェンダー文化を含んできたことを踏まえたうえで、近現代のセクシュアリティをめぐる政治・社会・文化の問題として、LGBTアイデンティティや人権の問題がどうなっているのかを考えたい。現在のLGBTを取り巻く状況もまた、それぞれの社会での(歴史の積み重ねによる)セクシュアリティ文化全体が作用して成立しているのだ。いま現在の社会でセクシュアリティの文化と制度がどうなっているのか、を精査せずに、「欧米は宗教的理由で同性愛に不寛容」「日本は中世に衆道文化があったから同性愛に寛容」みたいなアバウトな話をしても、なにも生み出さないと思う。
同じように、同性愛は多様なセクシュアリティの一部である、というコンテキストを踏まえずに、「トランスジェンダーバイセクシュアルや同性愛で知られるえらい人」をかき集めて「LGBTを讃える歴史」を作っても、それは「(LGBTコミュニティ内のイメージだけで作られた)想像の共同体」(by B.アンダーソン)と変わらないかもしれない。


まあ、こういうことを力技でやってしまう欧米(とくに米)のLGBTアクティヴィズムの豪腕直球ぶりは、相変わらず(よくも悪くも)すげえなあ、と感心してしまうのだが。


とはいえ、いささか危うい「想像の共同体」の是非は別として、異性愛中心主義的な文化の中で敢えて無視されてきた歴史的人物のセクシュアリティを可視化する−多くの偉人が「あたりまえのように異性愛者」であったと同様、多くの偉人が「あたりまえのように同性愛者/両性愛者/TG」あったことを、あたりまえのように言う−ことは、必要だと僕は思う。
あたりまえに同性愛者・両性愛者・TGはいること、異性愛以外のセクシュアリティは、人間の文化に溶け込み、結構大きな影響を及ぼしてきたこと。
「讃える」必要はないのだ。「そこにいたし、いる」ことが分かればいい。
人間のセクシュアリティは、ずっと多様だったという事実が伝わればいい。
これは、LGBT当事者の子どもたちだけじゃなく、異性愛者・マジョリティの子どもたちにとって役に立つ知識だと思う。
知りもしない「少数者」の「人権を尊重しろ」といきなり言われるより、歴史を楽しみながら、その存在に親しんでいくほうが、なんぼかいいだろう。


日本で、こうした「歴史で学ぶLGBT」というアイディアが取り上げられる可能性は、あるだろうか。
あると思う。
ゲイリーマンのカミングアウト的思考さんのところで知った朗報だが、千葉県の人権施策の基本方針には、同性愛者の人権が明文化されているのだ。


千葉県の人権施策の基本指針−第10節 同性愛者の人権

 同性愛に対する理解不足に基づく偏見や差別意識を解消し,性的指向やそれに基づくアイデンティティが尊重され,自らの生き方の自己選択・自己決定ができるような地域社会の実現に取り組みます。
 このため,性的指向や同性愛者の人権について理解を深め,同性愛者が自己肯定感を持てるような教育・啓発を推進します。


国全体、社会全体では困難に思えることも、地方自治体の地道な努力があれば、もっと早く実現する、という例証のようだ。
ここで挙げられている、教育・啓発の施策を具体化するとき、「LGBT歴史月間」はそれなりに使えるのではないかと思うが、どうだろう?