ブラジル日系新聞の同性愛記事に驚く
ヒゲネコさんの日記から−
ニッケイ新聞−2007年9月5日−男性同性愛者の容認率=選手と聖職者の間で大差
ニッケイ新聞は、サンパウロ市で発行されている移住者・日系人・駐在員向けの日本語新聞だ。
一読して驚いた。
公的メディアでここまで「ホモ」と連発している文章は、ずいぶん久しぶりに見た気がする。日本語で男性同性愛者を「ホモ」と呼ぶのはしばしば侮蔑的ニュアンスを含み、嫌う同性愛者が多い、ということは、それなりに浸透していると思う。日本のメディアとブラジルの日本語メディアの、ズレのようなものがあるんだろうか。
枕になっている事件の背景について一切説明がないのは、サンパウロでは有名な事件で今さら説明の必要がないと思ったのかもしれない。にしても事実誤認が多すぎるぞ。リシャリソンは裁判官の名前じゃないって。
「リシャリソン事件」、どういう事件かは、次の通り−
WorldNewsNetwork BBC News - Brazil judge in gay football row
Yahoo! Sport - August 14, 2007 - In a macho sport, an uproar over gays and soccer in Brazil
365Gay.com - August 14 - Brazil's Gay Soccer War
以前からゲイと噂があったらしいサンパウロFCの選手リシャリソンRicharlyson Barbosa Felisbinoの性的指向に、SEパルメイラスのJose CyrilloがTVで言及した。24歳の選手がゲイだとはっきり示唆する言い方だった。
リシャリソンは「公のアウティング*1でイメージを著しく傷つけられた」と彼を告訴。
が、裁判官フィリオManoel Maximiano Junqueira Filho はこれを却下、リシャリソンはゲイならサッカーを止めるべきだし、ゲイでないなら同じTV番組で抗弁する義務がある、と判定を出した。「ブラジル・サッカーにゲイを受け入れるのは妥当ではない、今ある均一性を損なう」。とんでもないヘイト・スピーチだ。
Gay.comによると、司法倫理を監督する政府機関からこの裁定についての答弁を求められたフィリオは、休暇を取ったらしい。
ニッケイ新聞が引用しているフォーリャ・デ・サンパウロ紙の8月19日付の同性愛に関する意識アンケートもネットで見れないか探しているのだが、見つからない(見つかったところで、ポルトガル語じゃ読めやしないんだが)。(※調査会社ダッタ・フォーリャのサイトで見ることができることが判明。追記参照。)
しかし、ニッケイ新聞に引用されている数字を見るかぎり、ゲイのサッカー選手は容認できるが79%、ゲイの教師・教授は容認できるが82%、同性愛を容認できる(?)が同性愛者のサッカー選手を容認できる人とした人の男女比は女性82%、男性67%と、マチスモが強そうなカトリックの国のイメージを裏切って(?)、頼もしい数字が叩き出されている。
「子どもが同性愛者なのはイヤ」「ゲイの聖職者は受け入れられない」というのは、ゲイの僕としては不条理に感じつつも、こういう結果が現実に出ること自体は、予想つかないでもない。
これは完全な推測だが、「ゲイのサッカー選手を許容するか」というアンケートは、リシャリソン事件を念頭に置いての質問ではないだろうか。だとすると、79%がフィリオのヘイトスピーチに否を主張したのである。(※ダッタ・フォーリャ社のアンケートは確かにリシャリソン事件を踏まえたもの。追記参照。)
しかし、こうしたデータを含むニッケイ新聞の記事の全体の書き方には、眉間にしわが寄ってくるものがある。
リシャリソン事件がアウティング、ヘイトスピーチ、スポーツにおける同性愛差別の問題だとは、記者はまったく考えていない、興味がないのではないか、と思えるし、ブラジル人の同性愛に対する意識アンケートのレポートで−
自分の愛する子供がホモであったら、どう思うかと同一人物に質問した。それは容認できないらしい。夫が結婚後,様子がおかしいという妻の苦情がある。最初は友人と思って、相手を家庭内に迎えた。二人は応接間で、アナルセックスを始めたので驚いた。
と書く。まるで、「同性愛者が家族にいるのはやっぱりイヤだろう気味悪いだろう」と煽っているような印象を受ける。
ブラジル日系社会にもレズビアンやゲイはいる、日系社会の子どもにも同性愛者はいる、それを考えてくれないのか、そう思わせる記事である。
9月10日追記
ニッケイ新聞が取り上げている同性愛に関する意識アンケートは、やはりリシャリソン事件を踏まえたものだ。
ブラジルの調査会社ダッタ・フォーリャ(Datafolha)が、同性愛者はサッカー選手になってはいけない、という司法責任者の発言に対し、11の職業について「同性愛者が就いていることを容認できるか?」というアンケートを、16歳以上のサンパウロ市民1091人に8月9日に行った。
Datafolha-19/08/2007-Para 79% dos paulistanos, homossexualismo não faz diferença quando se trata de jogar futebol
ウェブページ翻訳のガタガタの英訳で「推測しつつ」読んだので間違いがあるかもしれない(あったら指摘お願いします)が―
ダッタ・フォーリャは、リシャリソンの告訴に対する裁判官の発言に多数派が同意せず、同性愛者のプロサッカー選手を容認している、と述べている。エントリでニッケイ新聞から引用した女性82%、男性67%*2というのは、同性愛者のサッカー選手を容認すると答えた人の男女比だ。
調査結果は次の通り。
職業 | 同性愛者でもよい(%) | よくない(%) |
---|---|---|
教授 | 82 | 16 |
サッカー選手 | 79 | 18 |
議員・代議士 | 77 | 21 |
知事 | 73 | 25 |
市長 | 73 | 25 |
大臣 | 72 | 26 |
裁判官・司法関係者 | 72 | 26 |
大統領 | 69 | 29 |
軍人 | 69 | 29 |
福音派牧師 | 47 | 50 |
カトリック司祭 | 45 | 51 |
見ての通りこれは同性愛者の就業に関する意識アンケートで、「子どもが同性愛者だったら容認できない」「夫が友人と応接間でアナルセックスをしていたのを見た妻の苦情」といった話題は、少なくともダッタ・フォーリャの調査結果と解説には見当たらない。ニッケイ新聞が参照している8月19日付フォーリャ・デ・サンパウロFolha de S. Paulo紙に書かれていたか、ニッケイ新聞が追加したものだろう。
ただフォーリャ・デ・サンパウロ紙ウェブ版FolhaOnlineを関連語で検索しても、それらしい記事は出てこない。ニッケイ新聞の記事がフォーリャ紙をもとにしているのか、ダッタ・フォーリャ(19日はこちらのデータ公表の日付だ)をもとにしているのか、分からずに終わった。