はてなキーワードの「ポリガミー」の解説がぶっ飛んでいる件について


はてなキーワードの「ポリガミー」の解説があまりにぶっ飛んでいるので,驚いてしまった。


はてなキーワードーポリガミーとは


ポリガミー/モノガミー=一夫多妻制/一夫一妻制の家族形態を指す言葉である、という基本の定義は正しいのだが、そこからなぜカルト的宗教の教祖による女性信者の性的所有へ話が飛躍するのか。単なる派生的な解説のつもりかもしれないが、ポリガミーの事例としてはあまりに偏りすぎている。
それに、イスラームの一夫多妻制をカルト的宗教内部の性的関係と同列にするのもおかしい。イスラームはその成立期(つまり7世紀という非常に古い時代)に定められた「妻を平等に遇することができる限り4人までの妻帯を合法とする」という法が宗教法として保持されているのであって、女性の人権に大きな問題となってはいるだろうが、キーワード解説者の言う「宗教と乱交」とは完全に別の問題だろう。書き手にイスラームという宗教への偏見があるんじゃないかと思われてしまう。


こんにち使われているポリガミーの意味は、次のeyesさんとmacskaさんの説明が一番わかりやすそうだ。


OPEN EYES ジェンダーとセクシュアリティを考えるー「ポリガミー」というセクシュアリティ
macska dot org−ポリガミーとノン・モノガミーの違い


ポリガミーに「乱交」「浮気」「不誠実」というネガティブな印象を持つ人は多い(まさかカルトにまで飛躍する人がいるとは思わなかったが)。性的関係や恋愛関係は一対一、というモノガミーが、規範としてあまりに強すぎるのだろう。
たしかに、特定のパートナーがいるのに他の人と関係を持つ、裏で二股三股かけるというのはただの「浮気」だろう。誰かとのモノガマスな関係を受け入れているのに、隠れてポリガマスに行動しているわけだから。だがそれはその人が関係に誠意を欠く人間だというだけのことで、ポリガマスな人間・関係自体が悪いわけではない。
逆に、「モノガミーを強制されたくない!」と「思想的に」ポリガミーを励行するのも、なんである。もちろんそれで自分の幅が広がったというなら結構なことだが、やりたくないものを無理にやる必要もないだろう。


モノガミーがただの嫉妬や独占欲といったセクシュアルな感情のレベルじゃなく、規範として恋愛感情や性欲のコントロールにまで浸透しているのは、おそらく結婚制度や家族制度と無関係ではない。
結婚制度からはじき出されているゲイは、異性愛者のようにモノガミーに巨大な価値を与えてこなかった。それを望む人が「選択する」というだけのものだ。
同性愛者も利用できる法的パートナー制度が日本で成立しても、それは基本的に変わらないのだろう。


複数と関係を持ちたいという欲望を持たない人、嫉妬心が強い人はモノガマスな人なわけで、モノガミーを選択するのがいい。でも、単に自分がモノガマスな人間に過ぎないということを忘れて、ポリガマスな欲望や人間を乱交だ浮気だ色情狂だと偏見まみれに抑圧するのは(またはヘンに理想化するのは)不当だと、分かっておきたい。それは例えば「異性愛」だけを基準に同性愛やバイセクシュアルを異常扱い(またはヘンに美化)するのと変わりない。
だいたい、彼氏/彼女とのモノガマスな関係を、「それが決まり」じゃなく自分の意志で選択したのだと思えば、恋愛関係にももっとポジティブになれるんじゃないだろうか?

8月2日追記


このエントリで指摘したキーワード解説の問題の箇所を、ブクマのanother氏がコメントアウトにして下さった。
文句つけるぐらいなら自分で何とかしろよと言われそうだが、すでにある解説を隠したり消したりする手続きが分からなかったので、言うだけ言ってうっちゃらかしていた(調べろバカ)。anotherさん、どうもありがとうございました。