ベタとしてのPSB(笑)〜「Liberation」


たぶん日本一PET SHOP BOYSを愛している乙女であられるマーガレット様は、これも日本一のPSBサイトの管理人であり、PSB Ph.D.(ぺっとしょっぷぼーいずはかせ)みたいな方である。


このマーガレット様が、先日、藤嶋貴樹さんのQMEブログで、こうコメントしておられた。

ニール(・テナント)&クリス(・ロウ)はワタシにとってもう神様とか天使とかみたいなものなんで、人間のゲイ男子って認識がないんですが、冷静に見るとものすごくベタですわね。


Queer Music Experience―コメント欄


いや、いくらニール&クリスがベタにゲイ男子といっても、ゲイ男子ズがダンスミュージックの王者であり知的な前衛エレクトロニック・ポップの神であるPSBを、そうベタに鑑賞しているわけないじゃないですかはっはっはっ。


すみません嘘です完全にベタです。


これはあくまで僕が、だけれど、正直なところ僕にとってのPSBとは、世界を制覇したゲイ・アーティストに対する誇らしさであるとかポップでインテリジェントな社会批判性とかいう20kmぐらい手前のところで、なによりベタなゲイ・ラヴソングを歌ってくれるミュージシャンだった。


「Can You Forgive Her?」と「Go West」が入った「Very」(1993年)は、僕が初めて手に入れたPSBのアルバムだったが、珠玉を詰め込んだような名盤の中で、特別な思い出深さがあるのが、じつは「Liberation」(2003年ベスト版「PopPArt」にも収録)である。

Very Relentless

Very Relentless

Pop Art - The Hits(CCCD)

Pop Art - The Hits(CCCD)

Liberation


手を取ってくれ
僕は考えを改めたよ
ほんとうに信じ込んでいたんだ
恋なんかした奴は、皆バカだったんだって
でも間違ってたよ、それをよく学んだ
深夜、家へ帰る道すがらずっと
君は僕の肩にもたれて眠っていた


手を取って、束縛だとは思わないで
今は、今なら
君の愛は解放(liberation)だから


自分の中に信頼を解き放つ、
そんなことはしたことなかった
僕にはリスクが大きすぎるように思えて
でも突然、躊躇いを感じなくなったんだ、だから


手を取って
困難だなんて考えないで
今は、今なら
君の愛は解放だから
解放だから


夜、星
僕らのライトが闇を貫いて照らす
真夜中、家へ帰る道すがらずっと
君は僕の肩にもたれて眠っていた


手を取って、
躊躇いのことは考えないで
今は,今なら
君の愛は解放だから
解放だから


PET SHOP BOYS LYRICS-Liberation


このとおり、歌詞もすごいが、メロディーもすごく甘くて美しい、もうベッタベタのラヴソングである。


youtube-PET SHOP BOYS-Liberation Live


この「愛」が同性同士の愛で、この肩にもたれて眠る「君」は男だと考えていい、これは僕にとって、ものすごい感動だった。


ゲイは、たぶんレズビアンもだろうけど、歌の歌詞をダブル・ミーニングで読むことに慣れている。一般にはヘテロの生、異性愛を歌っていると思われている歌詞に、同性愛者の生、同性同士の愛を読みこんで共感する。


PSBの歌詞も基本的にはダブル・ミーニングだ。異性愛者のファンは、異性愛的に歌詞を聴き、共感できる。だが、PSBの場合、同性愛の方が堂々と「表」なのだ(と、僕は勝手に思っているのだ)。


槙原敬之の歌詞も、ゲイはみな彼がゲイだということを思いながらダブル・ミーニングで読んだ。だが、彼はつい最近までカミングアウトできず、そのカミングアウトも黙殺されたようなかたちになってしまった。槙原のゲイ・ソングとしての側面は、「裏」で読むしかなかった。


PSBは、ニール・テナントが自ら作品の一部をゲイ・ソングだと語り、ゲイであることをカミングアウトしている。これがもたらしている違いは、とんでもなく大きい。
(とはいっても、僕がPSBを聴き始めたのはニール・テナントがカミングアウトした1994年よりあとだから、こんな単純な見かたになっているんだと思う。ニールもデビューから10年以上はクローゼットだったのだ。)


マーガレットさんがサイトで紹介しているPet Shop Boys Commentaryでは、「Liberation」は「ゲイ・リベレーション」とかけられてあると解説されている*1
でも、ゲイには、このシンプルな歌詞が理屈より、体験的に理解できてしまう人が多いんじゃないだろうか。


誰かとつき合うこと、心をその人に預けてしまうことへの躊躇いや不安。恋人が「束縛」になるのではないかという恐れ。そんな不安が氷解し、その人と一緒にいることこそが自分にとって「解放」なんだと理解する―現実はいつもそう上手く行くわけはないが、そんな瞬間の幸福感が、これでもかってぐらい描かれている。
夜道を一緒に車で家に帰るっていうのが、もうベタである。昼間は家をひっくり返すぐらいの大ゲンカをやったに決まってる(笑)。


「Liberation」については、PSBは別にゲイ・ソングだと語っているわけではない。だが、僕にとってはほとんど初めて、同性愛者の特殊な(だいたいは過酷な)生や社会的な問題を絡めず、ただ「愛」を歌ってくれた曲だった。バカみたいにこの曲をリピートし続けていた自分のことを思い出すと、そのときの僕がどれほど同性愛者のラヴソングに飢えていたのかと思う。


だから、PSBは僕にとって、ものすごく「ベタ」なラヴソング・シンガーでもあるのである(笑)。

21日01時追記


マーガレットさんのブログの新エントリでこのエントリに言及していただいた。感激である。
しかし、お叱りもいただいた。「私は日本一ではない、静岡県代表である」とのことである。
ここに記してお詫びする。


しかし、それでも言いたい。


県大会であのレベルまでいくのか?
甲子園はどんな世界なんだ?


深すぎる、Pethead*2道…


「深いよニール!底が見えないよ!」
「このぐらいで驚いちゃいけないよクリス、フフフ」

*1:http://www.geowayne.com/psbhtml.htm

*2:Pet Shop Boysフリークのことを、こう呼ぶらしい。