"ゲイ・リベレーション"@NY

6月といえば、ストーンウォール暴動の月だ(1969年6月27日)。
アメリカのゲイ・リベレーションの記念碑的な事件で、日本にいる僕に何か実感があるというわけではないが、世界主要都市のプライドが目白押しの月だから、なんとなく頭のアンテナが立つ。


ストーンウォール暴動
AllAbout同性愛―歴史の授業で習えなかった同性愛 ストーンウォール・インの客


久しぶりにan encyclopedia of gay, lesbian, bisexual, transgender and queerを見たらプライド月間ということで、Symbols of Prideという特集をやっていた。そこで、こんな写真を見る。



George Segal's Gay Liberation
in New York's Sheridan Park (top) and on the campus of Stanford University.


1979年、ストーンウォール暴動の10周年を記念して、Mildred Andrews財団(パブリック・アートを支援する組織)が彫刻家ジョージ・シーガルに依頼して作ったモニュメント「Gay Liberation」だ。ストーンウォール・インがあったグリニッジ・ヴィレッジ近くのシェリダン・パークと、スタンフォード大学の構内の2ヶ所に設置された。



このモニュメントが作成されたいきさつは、こちら。

glbtq-Segal, George



このモニュメント・プロジェクトは、2方向からの反対を受けた。
まず、モニュメント設置が予定されたシェリダン・パークの住人から。
もう1つは、レズビアン・ゲイ・コミュニティから。ストーンウォールのモニュメントは、コミュニティの当事者のアーティストが作るべきだ、という主張が絶えなかったようだ。


たしかに、マイノリティのモニュメントをマジョリティが作るといった行為は、しばしば難しい問題を引き起こすかもしれない。だが、パブリック・アートを支援する財団がストーンウォール暴動を顕彰するモニュメントをNYのパブリック・アートに加えることを思い立ち、異性愛者の彫刻家がそのモニュメントを作る、これは素晴らしいことだったのじゃないかと僕は思う。


上の記事によると、ジョージ・シーガル自身、モニュメントは当事者が作るべきだと考え、プロジェクトの依頼をすぐには引き受けなかったらしい。結局モニュメント作製を引き受けた理由を、彼はこう語っている「私はゲイ・ピープルが抱える問題に極めてシンパシーを抱いている。彼らは人間なのだ、まず。私はそれ(=モニュメントの作製)をやることを拒むことはできなかった(I'm extremely sympathetic to the problems that gay people have. They're human beings first. I couldn't refuse to do it.)」。


「ゲイ・リベレーション」のために必要なものは、まさにこういう異性愛者たちの存在じゃないだろうか。


シーガルがモニュメント作製にあたり目指したのは、同性愛を普通の、親しみやすいものに描き(normalize and domesiticize)、マスメディアの扇情的な、過度に性的なイメージから救うことだった。強調されたのは、フィジカルな親密さ、柔らかさ、優しさだ。


たしかに、モニュメントの2組のカップルは、とても自然で柔らかい。ヘンに美化もされていない。レズビアンカップルのブッチはちょっとオバサンで、ゲイカップルの一方はハゲているっぽい。
いくらでもいる同性カップルが、幸せそうに見つめあい、触れ合っている。広々とした場所で、陽を浴びて。
シーガルというと、生きた人間から直接型取りした異様にリアルな形が逆に皮肉や暗い痛み、虚無を感じさせる彫刻というイメージがあったが、この「ゲイ・リベレーション」には「ホウ…」と思わず溜息が漏れるようなあたたかさ、おだやかさがある。
同性愛者が解放された状態とは、こんなふうに優しくおだやかな社会が生まれることなのだーそんな単純なことを、驚くぐらい易しく伝えるモニュメントだ。


この像を見る限り、モニュメントの作製がシーガルに依頼されたことが間違っていたとは、とても思われない。


LGBTのプライドを、異性愛者が受け止めて生まれた。それだからこそ、さらに優しくあたたかく感じられる。そんなモニュメントじゃないだろうか。


ジョージ・シーガル財団
George and Helen Segal Foundation