再び「NTTドコモ・キッズi-modeプラス」〜「問題化と対策」のただしいやりかたと、これから僕らができること


3月26日のエントリで、「NTTドコモ・キッズi-modeプラス*1がアクセス禁止対象として「ライフスタイル(同性愛)」という項目を設置している」問題を、砂川秀樹さんや、くぼりえさんのサイトを引用して取り上げた。


この問題を、今日は、名レズビアンブロガーid:miyakichiさんが取り上げておられる。



みやきち日記―NTTドコモ「キッズiモードプラス」の差別的なアクセス制限にどう対処するか


これが「問題をどう捉え、その問題性をどう分析し説明し、どう行動を促すか」という、みごとなお手本になっている。


市民が企業のやり方に疑問を持ち、抗議するにも、「適切・効果的なやりかた」がある。
「ムカついてわめいてサッパリ」ではダメなのだ
自分のエントリの反省のために、miyakichiさんのエントリのどこがどういいのか、をメモしておく。


「問題」は、ただしく「問題化」し、「対策」を立てる


「問題」が起きるのは、「問題と思っていないから」である。
差別が起きるのは、誰も差別していると思っていないからである。
「問題」は、まずすべからく、「それがなぜ問題なのか」、「問題化」するところからはじめねばならない


以下、miyakichiさんの方法:


【問題化】「アクセス制限が問題である」理由はなにか
 1.同性愛者に生まれた子どもにとって情報アクセスの選択肢があることは必須
 2.異性愛者の子どもにも同性愛の知識は必要
     (「教わらなかった」ことが差別や迫害行為を許す)


附:みやきちさんとNTTドコモのやりとり:
「差別的な行動を選ぶことによって得をする(=「差別的なサービスを喜ぶ顧客層に、ホモフォビックなサービスを売って利潤を得る」)ことを、NTTドコモは選んだ」と判断。



「問題化」のあとは、「じゃあどうすればよいか」の「対策」を具体的に示す
「問題だバカヤロー」で終わっていては、言うだけムダである。


【対策】「具体的に、どうすべきか」
 1.NTTドコモへの問い合わせ
 2.不買運動としての他会社への携帯の切り替え


「問題だ」と思わせても、普通人はなにもしない
「対策」は、ワンクリックでアクセスできるところまで準備しなければならない。



みやきちさんの「問題化」説明がとくにすぐれているのは、性的少数者LGBTとそうでない異性愛者すべて、特に、子どもを同性愛情報へのアクセスから遠ざける権限を持つ親を前提に組み立てられているところだ。


適切なソースを上げ、同性愛者・異性愛者の子どもどちらにも「同性愛情報へのアクセス権」が必要なことを丁寧に説明する。
最後に「子どもが同性愛者になることを心配する親」のためのサポート情報を上げる懇切さである。
いかに同性愛に悪印象を持っている親でも、これにまともに反論することはむずかしい*2



ゲイの僕は、いつもつい「「性的少数者の差別イクナイ」という問題を前提的に共有している人」を相手に書いてしまう。
しかし、実のところ、話が通じる人に語っても、あまり意味がないのである。僕が言わなくてもそういう人たちは、とっくに分かってるんだから。
それに、分かってる人に話すのは、はっきりいってラクである。


だがほんとうは、「なにが、なぜ問題であるのか」を気づいていない人に説得するのが、難しいし、必要なことなのだ。
(僕はさらに、気づいていない相手には怒りにまかせてガラの悪い怒鳴りかた、絡みかたをするというクセがあるので、まずいんである。)



「問題だ」と思っていない人に、「問題である」ことを気づかせる。
「問題だ」ということに気づいたら、「じゃあどうすればいいのか」までをきちんと示す。
問題を解決するっていうのは、こういうことなのだ。


自分の日記を「ムカついてわめいてスッキリ」するだけの脳内オナニー(失礼)より少しましなものにするために、これを肝に命じておこうと思う。以上、反省終わり。


NTTドコモ・キッズi-modeプラス」について、僕らがこれからなにができるか


ひとしきり反省したあとで、じゃあ、実際に僕らはこれからなにができるのか。


まず、抗議文的問い合わせメールをただ送ればいいというものじゃないことは、miyakichiさんとNTTドコモのやりとりからそこはかとなく分かる


一応、僕が送ったメールをつぎに引用してみる。

このたび、キッズi-modeプラスの「アクセス禁止対象」として「ライフスタイル(同性愛)」が入っていることを知り、驚きました。
私は同性愛者ですが、同性愛者のなかには、今ならキッズi-modeを使う小学生の頃から自分が同性にひかれることに気づき、悩んだ人も数多くいます。
周知のように学校教育で同性愛がまともに取り上げられることはなく、子どもが自然に性や愛の情報を得るテレビ・漫画などのメディアでは、同性愛のイメージは大きく歪められており、同性愛者の自覚を持ちかけている子どもにショックやトラウマを与える危険があります。
同性愛を自覚している子どもは、ほとんどの場合親や教師にも相談できないので、携帯は彼らを安心させる同性愛情報を得る大切なツールとなります。
逆に、正しい情報にアクセスできないと、むしろ小学生に相応しくないメディアに手を出さざるをえなくなる危険が高まります。アダルトなど、本来子どもに「アクセス制限」すべき過激な情報に接し、さらに悩みを深めることにもなりかねません。
御社がなぜ「アクセス禁止項目」として「ライフスタイル(同性愛)」という項目を設けたのか、ご説明願います。
そして、アダルトなどは別として、適切な同性愛情報サイト(「すこたん企画」など)には子どもが接することができるような項目変更の処置を、お願いします。


このメール文のダメっぷりにもいろいろあるのだが、NTTドコモからの回答は、


絶対、miyakichiさんのところの回答と同文です。


企業から僕のところに来たメールだから晒しても問題はなかろうし、僕の捏造でないことを信じてもらって、一部引用する。

弊社としては、キッズiモードプラスにおいて、アクセス制限の対象となっているサイトのすべてが、お子様にとって有害なサイトであると考えているわけではなく、どのサイトについてお子様のアクセスを制限させるべきかについてはご利用になるお客様それぞれにより価値判断が異なることと考えております。

従いまして、個々のお客様ごとにカテゴリを自らご選択いただいてアクセス制限機能をご利用いただくという方法が採用できれば良いのですが、電気通信システムへの負荷などの関係から、現状では、弊社で一定のカテゴリをお示ししたうえで、当該カテゴリに従ったアクセス制限機能をご利用になるかどうかをお客様にご判断いただく方法を採用しております。

カテゴリの決定にあたりましても、お子様にとって有害であるかどうかではなく、携帯電話をご利用いただくお子様の親御様のニーズに、より近いカテゴリは何かという観点で決定しております。


僕のメールがまずかったのは、「同性愛者の子どもの事情」を縷々述べ、NTTドコモの誠意を求めたことである。
これはムダである。なぜなら、


・「子どもの事情」などNTTドコモには関係ない(彼らの顧客は「親」)
NTTドコモにとっては「判断するのはお客様」

だからだ。


そんなわけで、「質問の形式を取った抗議」には、上の2項目を避けた部分を突かなければならない。
僕のメールような問い合わせが何千通来たところで、正直、NTTは痛くもかゆくもないだろう
これからメールをする人は、この点を考えてもらいたい。


じゃあ、どこに突っ込めるか?


(1)「禁止項目」選択肢を設定しているのはNTTである。これを外すことができるのもNTTである。

弊社で一定のカテゴリをお示ししたうえで、当該カテゴリに従ったアクセス制限機能をご利用になるかどうかをお客様にご判断いただく方法を採用しております。

責任を「お客様」に丸投げしているようだが、
一定のカテゴリを作ってるのはNTTドコモじゃねえか


(2)「ライフスタイル(同性愛)」というカテゴリが、そもそもおかしい。


「ライフスタイル(同性愛)」というのは、一見不思議ではない。僕もゲイである=僕の人生とか考えるクチだから、一瞬だまされた
しかし、「ライフスタイル」はいろんなもんがあるだろうに、なぜ「(同性愛)」だけなのか。
不穏なほど浮いたカテゴリである。


同性愛が選択可能な「ライフスタイル」→イヤだわ子どもにそんなライフを選択してもらいたくないわ→アクセス制限


となるに決まっている。
このカテゴリの設定自体が、おかしいのである。



別の働きかけもある。
次はid:HODGEさんが、くぼりえさんのエントリにつけたブクマ。

こういった情報こそ、英訳などをして、特にヨーロッパ──ドコモは欧州市場へ参入したがっていたはずだ──のゲイ団体や人権団体へ知らせたい。

HODGE SQUADRON / 2007年03月25日


英語が得意な人は、この情報をEUのニュースサイトにばんばん投稿することができる。
日本ならLGBTニュースサイトしか反応しないところだが、EUならもっと広がるかもしれない。
NTTドコモが自社のやりかたを再検討しなかったら、「反同性愛的企業」のレッテルが貼られてしまうかもしれない。


ある日の某EU企業(在仏)

「てえへんだてえへんだてえへんだい」
「なんでぇ、はっつあん(仮名・フランス人)、そんなに慌てて、どうしたってぇんだい」
「こんどウチと契約したがっている日本企業のNTTってぇのがよ、小学生向け携帯サービスで、同性愛サイトへのアクセス制限をかけてるってぇにゅうすが入ったのよ」
「そりゃいくらなんでもガキの頃からSGカウボーイの待ちうけ画像を集めてちゃあ困るだろう、早すぎるってもんよ」
「えろいサイトじゃねえ、『ライフスタイル』ってえんで、『同性愛』だけをアクセス制限してるんだそうだ」
「なんだい、おめえ、『ライフスタイル』っていやぁ、『生きかた』だろう。このフランスじゃあ、同性結婚を認めない30%の中にも『同性愛という生きかたは認める』っつう人間がいる*3圧倒的多数が同性愛=ライフスタイル=肯定なんだぜぃ」
「なあ、欧州憲法の『性的指向による差別の禁止*4にも触れちまう。こんな企業と契約したあかつきにゃあ、また国内のLGBT団体に騒がれるじゃあねぇか」


ということになる。


ともあれ、この問題は、「即急」というわけではない。
それぞれに、いろいろな、ただし、あくまで「効果のある」対策を、考えてみたらどうだろう。


僕ももう少し、考えてみる。

*1:エントリでは「プラス」を抜かしていたが、「キッズi-mode」と「キッズi-modeプラス」、違います。

*2:無視する、耳をふさぐということはありえるだろうが

*3:AllAbout同性愛―及川健二氏インタビュー。サイトはアダルトコンテンツ有、ただしこのインタビューページは非アダルト

*4:及川健二パリ修行日記参照。欧州憲法本文(PDF)