第60回人権週間(12月4日−10日)

  
第60回人権週間について−法務省人権擁護局
  
「性的指向と性自認の問題に対する国際人権法の適用に関するジョグジャカルタ原則」の関係で、12月10日の「世界人権の日」にクライマックスを迎えるアジアのLBT(レズビアン・バイセクシュアル女性・トランスジェンダー)イベントについて調べていますが、日本でも今は人権週間(12月4日−10日)のまっ最中です。全国各自治体で、さまざまな催しが開催されてるみたいですね。
  
第60回人権週間−Google検索
  
今年は、「世界人権宣言」が発表されて60周年。恐らく例年よりも、注目している人も多いのではないでしょうか?
  
The Universal Declaration of Human Rights - OHCHR
世界人権宣言−外務省
  


第2条
すべて人は、人種、皮膚の色、性、言語、宗教、政治上その他の意見、国民的若しくは社会的出身、財産、門地その他の地位又はこれに類するいかなる事由による差別をも受けることなく、この宣言に掲げるすべての権利と自由とを享有することができる。

Article 2
Everyone is entitled to all the rights and freedoms set forth in this Declaration, without distinction of any kind, such as race, colour, sex, language, religion, political or other opinion, national or social origin, property, birth or other status.
  
1948年に発表された人権宣言は、「性(sex)」による差別は否定しましたが、多様なセクシュアリティジェンダーの人権と尊厳には言及しませんでした。その内容は、時代的制約のせいとはいえ、あくまで性別二元論/異性愛中心主義的です。
  

第16条
1. 成年の男女は、人権、国籍又は宗教によるいかなる制限をも受けることなく、婚姻し、かつ家庭をつくる権利を有する。成年の男女は、婚姻中及びその解消に際し、婚姻に関し平等の権利を有する。
2. 婚姻は、両当事者の自由かつ完全な合意によってのみ成立する。
3. 家庭は、社会の自然かつ基礎的な集団単位であって、社会及び国の保護を受ける権利を有する。
  
Article 16
1. Men and women of full age, without any limitation due to race, nationality or religion, have the right to marry and to found a family. They are entitled to equal rights as to marriage, during marriage and at its dissolution.
2. Marriage shall be entered into only with the free and full consent of the intending spouses.
3. The family is the natural and fundamental group unit of society and is entitled to protection by society and the State.
  
この状況を変えようとしたのが、ジョグジャカルタ原則です。ジョグジャカルタ原則は、国際人権法に基づいて作成されてますから当然ですが、国際人権法の基盤である世界人権宣言と、わりとキッチリと対応しています。人権宣言に性の多様性の視点を取り込み、そこに力点を置いて書き直したのが、ジョグジャカルタ原則と言ってもいいでしょう。世界人権宣言は30条、ジョグジャカルタ原則は29条+追加勧告、意識しているっぽい(?)感じもします(笑)。
興味が湧いたら、世界人権宣言とジョグジャカルタ原則、読み比べてみてください。
  
参照:ジョグジャカルタ原則・目次
  
世界人権宣言ジョグジャカルタ原則
1. 人権の普遍性原則1 人権の普遍的享受に関する権利
2. 差別を受けない権利原則2 平等と差別されない権利
3. 生命と安全の権利原則4 生命に関する権利
原則5 個人の安全に関する権利
4. 奴隷にならない権利原則11 あらゆる形態の搾取、人身売買と取引からの自由に関する権利
5. 拷問・非人道的刑罰を受けない権利原則10 拷問と残酷及び非人道的又は侮辱的取り扱い又は処罰からの自由に関する権利
6. 法の下に人として認められる権利原則3 法の前の承認に関する権利
7. 法の下の平等と庇護の権利
8. 裁判を受ける権利
9. 恣意的な逮捕・拘禁を受けない権利原則7 自由の恣意的剥奪を受けない権利
10. 公正な裁判を受ける権利原則8 公正な裁判を受ける権利
原則9 拘留中の人道的扱いに関する権利
11. 犯罪の訴追を受けた者の権利
12. プライバシーの権利原則6 プライバシーに関する権利
13. 移動の自由の権利原則22 移動の自由に関する権利
14. 難民庇護を求める権利原則23 難民庇護を求める権利
15. 国籍の権利
16. 結婚と家族の権利原則24 家族を構成する権利
17. 財産の権利
18. 思想の自由の権利原則21 信条、良心、宗教の自由に関する権利
19. 表現の自由の権利原則19 考えと表現の自由に関する権利
20. 平和的集会・結社の権利原則20 平和的な集会と結社の自由に関する権利
21. 政治参加の権利原則25 公的生活に参加する権利
22. 社会保障の権利原則13 社会的安全とその他の社会的保障に関する権利
原則14 適当な生活水準に関する権利
原則15 適当な住居に関する権利
23. 労働の権利原則12 労働の権利
24. 休暇の権利
25. 医療・福祉の権利原則17 得られる限りの最も高い健康の水準に関する権利
原則18 医療における虐待からの保護
26. 教育の権利原則16 教育を受ける権利
27. 文化生活の権利原則26 文化的生活に参加する権利
28. 権利実現の権利原則27 人権促進に関する権利
原則28 効果的救済と補償に関する権利
原則29 説明責任
29. 権利行使における義務
30. 「世界人権宣言」侵害の権利の禁止追加勧告
  
ジョグジャカルタ原則の採用は、まだ世界のごく一部の国でしか進んでいませんが、世界人権宣言から60年、性の多様性を尊重し、性的指向と性自認の違いを理由とした差別を撤廃するという理念は、国際的に浸透しつつあります。今年の人権週間では、次の16項目が強調事項とされています。
  

 「女性の人権を守ろう」,「子どもの人権を守ろう」,「高齢者を大切にする心を育てよう」,「障害のある人の完全参加と平等を実現しよう」*1,「部落差別をなくそう」,「アイヌの人々に対する理解を深めよう」,「外国人の人権を尊重しよう」,「HIV感染者やハンセン病患者等に対する偏見をなくそう」,「刑を終えて出所した人に対する偏見をなくそう」,「犯罪被害者とその家族の人権に配慮しよう」,「インターネットを悪用した人権侵害は止めよう」,「性的指向を理由とする差別をなくそう」,「ホームレスに対する偏見をなくそう」,「性同一性障害を理由とする差別をなくそう」,「北朝鮮当局による人権侵害問題に対する認識を深めよう」及び「人身取引をなくそう」の強調事項を掲げ,啓発活動を展開することとしています。

第60回人権週間について−法務省人権擁護局
  
この通り、日本でも、差別の解消に取り組むべき問題として「性的指向」「性同一性障害」が挙げられているのです。
この項目が入ったのは、(僕が確認した限りなので確証はないですが、)第54回(平成14年)から(「性同一性障害」が独立項目になったのは、もう少しあと)。このときから、人権週間のあいだ、この強調項目はすべての自治体のホームページや啓発リーフレットなどを通して、公に発信され続けているわけです。気づいていない人が多い可能性も、高いのですが(笑)。
  
でも、毎年繰り返されるメッセージが、毎年少しずつ、誰かの気づきのきっかけになってゆけば、いいですよね。
  
日本のさまざまな人権問題を考えるとき、性的少数者の問題はそのごく一部に過ぎないけれど、ジェンダーとセクシュアリティという、すべての人間に関わる問題から生じている問題です。
女性の、子どもの、高齢者の、障碍者の、外国人の、アイヌの、HIV陽性者の、ハンセン氏病患者の、受刑者の、ホームレスのなかに、性的少数者はいます。
そして性的少数者は、そうした他の人びとの人権を侵害する立場にもあります。
  
そんなことを、この機会に考えてみたいと思います。
  

第60回人権週間について−法務省人権擁護局

 
1 人権週間

 国際連合は,1948年(昭和23年)12月10日の第3回総会において,世界における自由,正義及び平和の基礎である基本的人権を確保するため,すべての人民とすべての国とが達成すべき共通の標準として,世界人権宣言を採択したのに続き,1950年(昭和25年)12月4日の第5回総会においては,世界人権宣言が採択された日である12月10日を「人権デー」と定め,すべての加盟国及び関係機関が,この日を祝賀する日として,人権活動を推進するための諸行事を行うよう,要請する決議を採択しました。
 我が国においては,法務省と全国人権擁護委員連合会が,同宣言が採択されたことを記念して,1949年(昭和24年)から,毎年12月10日を最終日とする1週間(12月4日から同月10日まで)を「人権週間」と定めており,その期間中,各関係機関及び団体の協力の下,世界人権宣言の趣旨及びその重要性を広く国民に訴えかけるとともに,人権尊重思想の普及高揚を図るため,全国各地においてシンポジウム,講演会,座談会,映画会等を開催するほか,テレビ・ラジオなど各種のマスメディアを利用した集中的な啓発活動を行っています。


2 「第60回人権週間」強調事項の趣旨

「女性の人権を守ろう」

 男女平等の理念は,日本国憲法に明記されているところであり,法制上も,男女平等の原則が確立されています。しかし,例えば,「男は仕事,女は家庭」といった男女の役割を固定的にとらえる人々の意識は,今なお社会に根強く残存しており,このことが,家庭や職場において種々の男女差別を生む原因となっています。また,配偶者・パートナー等からの暴力や職場等におけるセクシュアル・ハラスメント,性犯罪などの「女性に対する暴力」の問題も,重大な人権問題です。
 このような状況において,「男女共同参画社会基本法」,「ストーカー行為等の規制等に関する法律」,「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律」がそれぞれ制定されました。
 法務省の人権擁護機関としても,全国の法務局・地方法務局に,女性の人権問題を専門に取り扱う電話相談窓口「女性の人権ホットライン」を設置し,「女性に対する暴力をなくす運動」期間中に全国一斉「女性の人権ホットライン」強化週間を設けるなど,今後とも取組を強化するとともに,積極的に女性の人権擁護を図るため,啓発活動に取り組んでいきます。

「子どもの人権を守ろう」

 子どもたちの間における陰湿かつ執拗な「いじめ」は依然として全国各地で多発しており,教師による体罰も後を絶ちません。また,国内外での児童買春や性的虐待,インターネット上における児童ポルノのはん濫など,子どもの商業的性的搾取の問題が世界的に深刻になっていることや,近年,親などの保護者による虐待行為により,子どもの生命が奪われたり,子どもの心身や人格の形成に重大な影響が及んでいること等から,「児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律」,「児童虐待の防止等に関する法律」がそれぞれ制定されました。
 このような子どもをめぐる人権問題を解決するためには,広く国民の間に人権尊重の理念を定着させ,すべての人々が豊かな人間関係の中で暮らせる状態を築き上げることが必要不可欠です。
 法務省の人権擁護機関としても,未来を担う子どもたちの人権を守るため,児童の権利条約の趣旨の周知を含め,啓発活動に取り組んでいきます。また,子どもが発する信号をいち早くつかみ,その解決に導くために設置された専門相談電話「子どもの人権110番」(全国共通フリーダイヤル)を活用して,子どもや親などからの相談に応じたり,便せん兼封筒を小・中学校の児童・生徒に配布し,返信された封書による児童・生徒からの相談に応じる「子どもの人権SOSミニレター」を実施していきます。さらに,「子どもの人権専門委員」制度の周知を徹底するための広報活動を積極的に推進し,学校その他の関係各機関及び団体との協力体制を強化するとともに,国民一人一人が自分自身の課題として人権尊重の理念についての理解を深めるような取組を充実させていくこととします。

「高齢者を大切にする心を育てよう」

 我が国における高齢化の現状は,平均寿命の大幅な伸びや少子化などを背景として,5人に1人が高齢者となっています。こうした状況の中,高齢者に対する就職差別,介護を必要としている高齢者に対する介護者による身体的・心理的虐待,あるいは,高齢者の家族等が本人に無断でその財産を処分する経済的虐待などの高齢者をめぐる人権問題が大きな社会問題となっています。
 このような状況において,高齢社会対策の推進に当たっての基本姿勢を明確にし,対策の一層の推進を図るため,「高齢社会対策大綱」が決定され,また,「高齢者虐待の防止,高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」が制定されました。
 法務省の人権擁護機関としても,高齢者を大切にし,高齢者の人権についての国民の理解と認識を深めるため,啓発活動に取り組んでいきます。

「障害のある人の完全参加と平等を実現しよう」

 我が国は,「ノーマライゼーション」を基本理念の一つとする障害者施策を進めてきましたが,現実には,車椅子での乗車を拒否されたり,アパートへの入居を拒否される事案が発生するなど,障害のある人に対する国民の理解や配慮はいまだ十分でなく,その結果として障害のある人の自立と社会参加が阻まれており,「障害のある人も地域の中で普通の暮らしができる社会に」というノーマライゼーションの理念は完全に実現されているとはいえない状態にあります。
 このような状況において,平成15年度から24年度までの10年間を計画期間として「障害者基本計画」が決定され,また,同基本計画の後期5年間(平成20年度〜24年度)を対象とする新たな「重点施策実施5か年計画」が決定されました。
 法務省の人権擁護機関としても,国民の間にノーマライゼーションの理念を一層定着させ,障害のある人の自立と社会参加を更に促進するため,啓発活動に取り組んでいきます。

「部落差別をなくそう」

 同和問題とは,日本社会の歴史的発展の過程で形づくられた身分差別により,日本国民の一部の人々が長い間,経済的,社会的,文化的に低位の状態を強いられ,今なお結婚を妨げられたり,就職で不公平に扱われたり,日常生活の上でいろいろな差別を受けるなどの我が国固有の重大な人権問題です。
 この問題の解決を図るため,国は,地方公共団体等とともに,昭和44年以来三度にわたる特別措置法に基づき,地域改善対策に係る関係諸施策を実施した結果,同和地区の劣悪な環境を始めとする物的な基盤整備は着実に成果を上げ,ハード面における一般地区との格差は大きく改善されましたが,結婚問題を中心とする差別事象はいまだに後を絶っていません。
 法務省の人権擁護機関としても,部落差別の解消を目指し,啓発活動に取り組んでいきます。

「アイヌの人々に対する理解を深めよう」

 アイヌの人々が,憲法の下で平等を保障された国民として,その人権が擁護されなければならないのは当然のことです。しかし,アイヌの人々に対する理解が十分ではないため,就職や結婚などにおいて偏見や差別が依然として存在しています。
 アイヌの人々は,固有の言語,伝統的な儀式,祭事や多くの口承文学(ユーカラ)などの独自の文化を持っていますが,近世以降のいわゆる同化政策などにより,今日では,十分な保存,伝承が図られているとは言い難い状況にあります。特に,アイヌ語を理解し,アイヌの伝統などを担う人々の高齢化が進み,これらを次の世代に継承していく上での重要な基盤が失われつつあります。
 このような状況において,「アイヌ文化の振興並びにアイヌの伝統等に関する知識の普及及び啓発に関する法律」が制定され,アイヌの人々の誇りの源泉であるアイヌの伝統等について国民に対し知識の普及及び啓発を図るための施策が推進されています。
 法務省の人権擁護機関としても,アイヌの人々に対する偏見や差別を解消し,アイヌの人々に対する理解と認識を深めてもらうため,啓発活動に取り組んでいきます。

「外国人の人権を尊重しよう」

 近年の国際化時代を反映して,我が国に在留する外国人は年々急増しています。憲法は,権利の性質上,日本国民のみを対象としていると解されるものを除き,我が国に在留する外国人についても,等しく基本的人権の享有を保障しています。
 しかし,現実には,我が国の歴史的経緯に由来する在日韓国・朝鮮人をめぐる問題のほか,言語,宗教,生活習慣等の違いから,外国人に対する就職差別やアパートやマンションへの入居拒否,飲食店等への入店拒否,公衆浴場での入浴拒否など様々な人権問題が発生しています。
 我が国も加入している「あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する条約」においては,人種差別や外国人差別等あらゆる差別の解消のための更なる取組が求められています。今後ますます国際化が進むことが予想される状況の中で,外国人のもつ文化を尊重し,その多様性を受け容れることが,国際社会の一員として望まれています。
 法務省の人権擁護機関としても,国民のすべてが,国内・国外を問わず,あらゆる人権問題についての理解と認識を深め,外国人に対する偏見や差別をなくし,真に国際化時代にふさわしい人権意識をはぐくむため,啓発活動に取り組んでいきます。

「HIV感染者やハンセン病患者等に対する偏見をなくそう」

 HIV(エイズウィルス)感染症についての正しい知識や理解の不足から,日常生活,職場,医療現場など社会生活の様々な場面で,HIV感染者が差別やプライバシー侵害などを受けるという人権問題が発生しています。「エイズ問題総合対策大綱」では,HIVに対する正しい知識の普及,検査・医療体制の充実,相談・指導体制の充実及び二次感染防止対策の強化,国際協力及び研究の推進が重点対策として掲げられ,これら重点対策の推進に当たっては,プライバシーと人権の保護に十分な配慮を払うこととされています。
 また,ハンセン病については,患者及び回復者に対する偏見と差別という不幸な歴史が長い間続き,近年においても,ハンセン病元患者に対する宿泊拒否や嫌がらせ等の人権問題が発生しました。本年6月には,「ハンセン病問題の解決の促進に関する法律」が成立し,「何人も,ハンセン病の患者であった者等に対して,ハンセン病の患者であったこと又はハンセン病に罹患していることを理由として,差別することその他の権利利益を侵害する行為をしてはならない。」と定められました。
 法務省の人権擁護機関としても,これらの状況を踏まえ,HIV感染者やハンセン病患者等に対する偏見や差別をなくし,理解を深めてもらうため,啓発活動に取り組んでいきます。

「刑を終えて出所した人に対する偏見をなくそう」

 刑を終えて出所した人やその家族に対する偏見には根強いものがあり,就職に際しての差別や住居等の確保の困難などの問題が起きています。
 刑を終えて出所した人が,社会の一員として円滑な生活を営むためには,本人の強い更生意欲とあわせて,家族,職場,地域社会の理解と協力が必要です。
 法務省の人権擁護機関としても,刑を終えて出所した人に対する偏見や差別をなくすため,啓発活動に取り組んでいきます。

「犯罪被害者とその家族の人権に配慮しよう」

 近年,犯罪被害者等をめぐる問題としては,興味本位のうわさや心ない中傷などにより名誉が毀損されたり,私生活の平穏が侵害されたりすること等があり,また,犯罪被害者等は,その置かれた状況や負担の重さから,泣き寝入りせざるを得ない場合が少なくないなど,犯罪被害者やその家族の人権問題に対する配慮と保護を図ることが課題となっています。
 このような状況において,犯罪被害者等が,その受けた被害を回復又は軽減し,再び平穏な生活を営むことができるよう支援する等のための施策に関し,基本理念を明らかにしてその方向性を示し,国及び地方公共団体のほか関係機関や民間団体の連携の下,総合的かつ計画的に推進するための「犯罪被害者等基本法」が制定され,犯罪被害者等のための大綱等を定めた「犯罪被害者等基本計画」が決定されました。
 法務省の人権擁護機関としても,犯罪被害者とその家族の人権への配慮と保護を図るため,啓発活動に取り組んでいきます。

「インターネットを悪用した人権侵害は止めよう」

 近年のインターネットの普及に伴い,その匿名性,情報発信の容易さから,他人を誹謗中傷する表現や差別を助長する表現が掲載されるなど,人権にかかわる様々な問題が発生しています。
 法務省の人権擁護機関では,憲法の保障する表現の自由に十分配慮しつつ,一般に許される限度を超えて他人の人権を侵害する悪質な事案について相談を受けた場合には,被害者は,プロバイダー等に対し,発信者の情報の開示を請求したり,人権侵害情報の削除を依頼できることなど,事案に応じた適切な助言を行っており,被害者自ら被害の回復や予防を図ることが難しい場合には,当機関がプロバイダー等に人権侵害情報の削除を求めるなど適切に対応しています。また,インターネットを悪用した人権侵害を防止するため,一般のインターネット利用者やプロバイダー等が個人の名誉やプライバシーに関する正しい理解を深めてもらうため,啓発活動に取り組んでいきます。

「ホームレスに対する偏見をなくそう」

 自立の意思がありながらホームレスとなることを余儀なくされ,健康で文化的な生活を送ることができない人びとが多数存在する一方,地域社会とのあつれきが生じるなど,ホームレス問題は大きな社会問題となっています。また,ホームレスに対する嫌がらせや暴行事件などの人権侵害の問題も発生しています。
 このような状況において,ホームレスの自立を積極的に促すとともに,地域社会におけるホームレスに関する問題の解決を図ることを目的として,「ホームレスの自立の支援等に関する特別措置法」が制定され,「ホームレスの自立の支援等に関する基本方針」が決定されました。
 法務省の人権擁護機関としても,ホームレス及び近隣住民の人権に配慮しつつ,ホームレスに対する偏見や差別を解消するため,啓発活動に取り組んでいきます。

「性的指向を理由とする差別をなくそう」

 性的指向とは,性的意識の対象が異性,同性又は両性のいずれに向かうかを示す概念を言い,具体的には,異性愛,同性愛,両性愛を指します。性的指向を理由とする差別的取扱いについては,現在では,不当なことであるという認識が広がっていますが,特に,同性愛者については,いまだ偏見や差別を受けているのが現状です。
 法務省の人権擁護機関としても,性的指向を理由とする偏見や差別をなくし,理解を深めてもらうため,啓発活動に取り組んでいきます。

「性同一性障害を理由とする差別をなくそう」

 性同一性障害とは,生物学的な性(からだの性)と性の自己意識(こころの性)が一致しないため,社会生活に支障をきたす状態をいいます。「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」により,性同一性障害であって一定の条件を満たすものについては,性別の取扱いの変更について審判を受けることができるようになりましたが,一方で,性同一性障害に対する偏見や差別があります。
 法務省の人権擁護機関としても,性同一性障害を理由とする偏見や差別をなくし,理解を深めてもらうため,啓発活動に取り組んでいきます。

「北朝鮮当局による人権侵害問題に対する認識を深めよう」

 平成14年9月17日の日朝首脳会談で,北朝鮮側は,長年否定していた日本人の拉致を初めて認め,謝罪し,再発防止を約束し,その結果,北朝鮮当局によって拉致された被害者のうち5人については,同年10月15日に24年振りの帰国が実現しました。また,平成16年5月22日には小泉総理が再訪朝し,さらに,拉致被害者の家族5人の帰国も実現しました。しかしながら,その他の被害者については,いまだ北朝鮮当局から納得のいく情報は提供されておらず,安否不明のままです。
 我が国政府としては,広く国内外で北朝鮮による日本人拉致問題について情報収集を行うとともに,早期の問題解決のため,粘り強い外交努力を継続しているところであり,また,国連を始め,G8サミット,APEC,ASEAN+3等の首脳会談や外相会談の際にも関係各国に対して拉致問題の解決に向けて理解と協力を求めているところです。
 このような状況において,北朝鮮当局による人権侵害問題に関する国民の認識を深めるとともに,国際社会と連携しつつ北朝鮮当局による人権侵害問題の実態を解明し,及びその抑止を図ることを目的として,「拉致問題その他北朝鮮当局による人権侵害問題への対処に関する法律」が制定され,国及び地方公共団体の責務等が定められました。
 法務省の人権擁護機関としても,北朝鮮当局による人権侵害問題について国民に関心と認識を深めてもらうため,啓発活動に取り組んでいきます。

「人身取引をなくそう」

 性的搾取,強制労働等を目的とした人身取引(トラフィッキング)は,重大な犯罪であり,基本的人権を侵害する深刻な問題です。我が国では,内閣に設置された「人身取引対策に関する関係省庁連絡会議」において,人身取引の撲滅,防止,人身取引被害者の保護等を目的とする「人身取引対策行動計画」が取りまとめられ,関係省庁が協力してこの問題に取り組んでいます。
 法務省の人権擁護機関としても,人身取引の問題について理解を深めてもらうため,啓発活動に取り組んでいきます。

*1:12月3−9日は障害者週間