ワールド・エイズ・キャンペーン2008年世界エイズデー・テーマ「リーダーシップ」

  
今日は、20回目の世界エイズデーです。
  


 WHO(世界保健機関)は、1988年に世界的レベルでのエイズまん延防止と患者・感染者に対する差別・偏見の解消を図ることを目的として、12月1日を“WorldAIDSDay”(世界エイズデー)と定め、エイズに関する啓発活動等の実施を提唱した。我が国としても、その趣旨に賛同し、毎年12月1日を中心にエイズに関する正しい知識等についての啓発活動を推進しており、全国各地で様々な「世界エイズデー」イベントが実施されている。
  
厚生労働省ー平成20年度世界エイズデーイベントについて
  
今年のエイズデーのテーマは「LivingTogether〜ちょっとの愛からはじまる事〜」。
  

選定の趣旨

様々なセクシャリティ(性行動の対象の選択や性に関連する行動・傾向)の人々や、HIV陽性の人々、陰性の人々が一緒に生きている現実をありのままに受け止め、エイズのまん延防止や差別・偏見の解消のために、ひとりひとりに何ができるかを国民全体で考えていく。
  
厚生労働省ー平成20年度世界エイズデーイベントについて

  
「一緒に生きる(LivingTogether)」とは、HIVエイズを持つ人と持たない人が一緒に、ということ。2006年から日本のHIVエイズ対策のテーマに採用されています。
  
世界エイズデー・テーマ一覧ーAPI-Net(エイズ予防情報ネット)
  
HIVエイズは、発症した場合の治療法がないという問題もありますが、それ以上に社会的なスティグマと差別が深刻な病気です。日本には1980年代に、無知と偏見からくるHIVエイズへの恐怖に社会が国が踊らされた「エイズ・パニック」(1986-7年)という苦い経験があります。マスコミがエイズへの恐怖を煽る報道で社会をパニックに陥れ、国民の混乱を鎮めるべき国が率先して人権侵害的な「エイズ予防法」を制定した(1989制定-1999廃止)。誤った情報の流布や、医者・病院の診療拒否により多くの患者が命を落としたといいます。
  
エイズ・パニック」とエイズ予防法については:
補足・エイズパニックと予防法ー諏訪の森法律事務所
 (エイズ予防法の法的な問題と、それが成立した当時の社会的背景を説明しています)
エイズ基本年表−AIDS SCANDAL
 (米で最初の正式な症例報告があった1981年からHIV陽性者・エイズ患者が福祉対象となる1998年までの日本のHIVエイズ問題年表です)
差別を助長させたものは何?ーAIDSを学びながら人権を考えよう
 (当時のマスコミのエイズ報道の見出しが紹介されています)
  
国内のPLWHA(エイズとともに生きる人)が判明しているかぎりで1万5000人以上という数に達し、先進国の中でも感染拡大が深刻化している日本のこれからのHIVエイズ問題を考えるとき、このような歴史のことも忘れないようにしたいと思います。
  
そして、1年のうちたった1日ではなく、365日、HIVとともに生きているかたがた、家族・友人のかたがたが、変わらず健やかに暮らされることを願いたいと思います。そんな社会のために、自分がひとりの人間として非力ながらできることは何かを、考えていきたいと思います。
  
  
ところで世界エイズデーは、もちろん国際的なイベントでもあります。
国際的にHIVエイズ啓発運動のイニシアティブを担当しているのはWorld AIDS Campaign(2005年に国連エイズ計画UNAIDSから引き継ぐ)ですが、そちらの2007-2008年の世界エイズデーのテーマは、「リーダーシップ(Leadership):導き、力を与え、そして約束を果たす」です。
  
World AIDS Day 2008:LEAD-EMPOWER-DELIVER - World AIDS Campaign
  
世界の世界エイズデーも、1988年以降、さまざまなテーマを設定してきました。そのテーマにも、世界のHIVエイズ政策が歩んできた道がうかがえるのかもしれません。
2006年までの世界エイズデーのテーマは、次の通り。
  
World AIDS Day - WHO
  

  
「リーダーシップ」というテーマには、現在の唯一の、そして焦眉のHIVエイズ防止策=セイファーセックスの徹底による感染予防と、すべての陽性者の十分な治療へのアクセスを推進してゆくために、あらゆるレベル(国ー社会ー個人)で人びとを動かす指導力の発揮を求めるーそういう意図がこめられているようです。今年8月にメキシコ・シティで開催された2008年国際エイズ会議の1つのテーマにもなっていました。
Leadership Programme Vision-XVII International AIDS Conference
  
力強いメッセージですがしかし、「理想」や「心がまえ」ではなく「行動」を、一刻も早い行動を、という厳しい切迫感を感じざるをえません。
  
すべての個人は、組織は、自治体は、国は、HIVエイズの広がりに対する責務を自覚しているのか。そのために、どんなリーダーシップをとっているのか。それを厳しく問いなおし、HIVエイズに取り組む人びとを支え励まし、そして、何度も繰り返されてきたーそして、遅らされ,人びとを失望させてきたー約束を実現せよと問いかける。ワールド・エイズ・キャンペーンの2008年エイズデー趣旨説明は、そのことを訴えています。
  
また原文の迫力を削ぐような稚拙な訳になってしまいましたが、日本語にしてみました。
きょうは自分なりに、そのことを考える日にしてみたいと思います。
  
  

2008年世界エイズデー:指揮する、力を与える、そして約束を果たす(LEAD-EMPOWER-DELIVER)

  
「リーダーシップ」は、「エイズを止めよう、約束を守ろう(Stop AIDS. Keep the Promise)」のスローガンのもと推進される2007年・2008年の世界エイズデーのテーマである。
  
「リーダーシップ」は、エイズを阻止するためにあらゆるレベルで指揮を執る人びとを励ましている。2006年のテーマ「責務(accountability)」を踏まえ、「リーダーシップ」は、エイズの拡大阻止のためになされてきたさまざまな約束に対応する行動が行われていないことを問題にする。「リーダーシップ」は、あらゆる人ー個人・組織・政府ーを、エイズへの取り組みをリードせよと力づける。
  
2007年、世界の人々は、率先してエイズの阻止に取り組もう、と勇気づけられた。その運動は、パレードやリーダーシップについてのディスカッション、公の啓発イベント、指導層から[エイズへの取り組みへの]支援の約束を得るというかたちで行われた。これらのイベントのすべてが、リーダーシップに光を当てることにつながった。
さまざまな人が、そのリーダーシップを差し出したーいまこそ、それを伝えてゆくときだ。約束は守り続けねばならず、人々は行動する力を与えられたのだと思わねばならない。
  

なぜ、2008年が重要なのか?

  
2008年は、世界エイズデーの20周年を記す年である。1988年から、エイズの様相とそれへの対応は、大きく変化した。これらの変化の多くは好ましい方向性を持つものだが、今年のエイズデーは、いまだなされていないことがどれほど多いかを強調する機会となる。
  
たとえばー

  • 世界の多くの国の指導層は、いまやエイズの脅威を認め、多くの指導者がそれについて何かを行うと約束している。2007年には、ほぼすべての国が、国家的な対エイズ政策を有していた。しかし、にもかかわらず、そのほとんどが十分に履行されておらず、多くの政策が財政支援の割り当てを受けていない。
  • HIVエイズの治療は1988年から改善され広く広まっているとはいえ、多くの人びとが、いまだにそれにアクセスできていない。ー2007年には、低所得国、中所得国の治療を必要とする人びとのたった31%しか治療を受けていなかった。
  • HIV啓発は、いまでは全世界のほぼすべての地域に行き渡っている。にもかかわらず、感染は相変わらず、治療を受ける人びとの増加の2.7倍の速さで起きている。
  • HIVとともに生きる人びとを保護する国の数は増え続けている。しかし、1/3の国が、今なおHIVとともに生きる人びとを法的に守ることをせず、エイズとともに生きる人びとへの偏見と差別は、すべての人が治療にアクセスすることを妨げる主たる脅威であり続けている。
  • さらに概観すれば、HIVエイズと人権に関わる本当に重要な行動は、不足し続けている。女性、未成年者、セックスワーカー、麻薬使用者、男性と性交渉を持つ男性のような人びとに対し、HIV医療サービスへのアクセスを妨げる障壁はなお存在しているし、HIVに関わる人権を促進する組織的な取り組みは、依然として優先事項だ。

世界エイズデーは、1988年に始まった。この年、世界じゅうの保健省大臣が会合し、この日を私たちすべてが集まりエイズ問題の重要性を訴え、その阻止のための結束を示す機会とするという考えに賛同した。2008年、この結束と意識高揚の重要な原則は、変わっていない。
「2010年までに、すべての人が予防プログラム、治療、ケア、支援にアクセスできるようになるという目標」[原注:2006年の宣言]まで、私たちはたった2年しか残されていない。
  
この目標に到達するために、リーダーシップと行動が、いま必要とされている。政府は自分がした約束を果たさねばならない。コミュニティは、その構成員がリーダーシップをとってゆくよう励まさねばならない。ひとりひとりの人は、治療にアクセスする権限があるのだと思う必要がある。自身の権利を知り、偏見と差別に対抗する行動を起こし、HIVを感染させる・させられるのを予防する方法を知り、用いることができるのだと思わねばならないのだ。