気になったニュース


アメリカの大手レズビアン・サイトの名は「アフター・エレンAfterEllen」。多才なコメディアンかつプラウドなレズビアンエレン・デジェネレスにちなんだ名前だ。
このエレン・デジェネレスのパートナーのポーシャ・デ・ロッシは、もしかしたら、アメリカ一有名なレズビアンの恋人なのかもしれない。


彼女について、気になったニュース。



シネマトゥデイ−ポーシャ・デ・ロッシ、「NIP/TUCK」のレズ役は断るつもりだった


 [シネマトゥデイ映画ニュース] エレン・デジェネレスの恋人として知られるポーシャ・デ・ロッシが、当初、人気ドラマ「NIP/TUCK」へのゲスト出演を断るつもりだったとWENNが報じた。理由は、レズビアンという型にはめられたくなかったからだという。「エレンとの関係があまりにも公なので、こうやってレズ役ばかりやることになるのかしらと悩んだわ」とロッシ。そんな彼女を説得したのが恋人のデジェネレスだった。「エレンに、別にいいじゃないと言われて、確かにどうでもいいことだと思えたの。今はレズ役の方がおもしろくて、普通の恋人役を断っているくらいよ」と語った。


WENNの元記事とは、これと同じだろう。


Yahoo! News - De Rossi worried lesbian Nip/Tuck role will typecast her


By WENN world entertainment news - Wednesday, November 14 09:25 am


女優のポーシャ・デ・ロッシは、最近出演した米のTVドラマNip/Tuckのレズビアン役を断ろうとしていた。同性愛者のタイプキャストにはなりたくないからだ。
Actress Portia De Rossi almost turned down her latest role as a lesbian in U.S. TV show Nip/Tuck because she doesn't want to become typecast as a homosexual.


デ・ロッシは、実生活での恋人エレン・デジェネレスに「面白い」キャラクターをやれと説得されて、ジョエリー・リチャードソン[NIP/TUCKのショーンの妻でクリスチャンの想い人のヒロイン、ジュリア]のガールフレンドという役だけを引き受けた。
De Rossi only accepted the part as Joely Richardson's girlfriend on the programme after her real-life lover Ellen DeGeneres persuaded her to play the "interesting" character.


彼女は語る。「エレンとの関係があまりに公で、『私はまた恋愛ものの主役を演じることになるのかしら?』と考えたの。『これは私がレズビアンタイプキャストになってしまうということなのかしら』と思った一瞬があったのよ」
She says, "My relationship with Ellen is so public, and I thought, 'Am I going to play a romantic lead again?' I had that one moment of, 'Does this mean I'll be typecast as a lesbian?'


「するとエレンが私のほうを見て、言ったの、『だから何?』って。で、私は思ったわ。『そうよ、そうだわ、だから何?』いくつか恋愛ものの主役のオファーを受けたけれど、それは断ったわ。だって、そのレズビアン[役]が私にはずっと面白く思えたから。
"And Ellen turned to me and said, 'So what?' And I thought, 'Oh yeah, right, so what?' I was offered romantic lead roles, and I turned them down because the lesbian seemed more interesting to me."


なんで(また粘着的に)ソースを引いてきたりしたのかというと、まず
「レズレズゆーな」
と言いたいのだが。


印象なので確証はできないが、(シネマトゥデイのような)ニュースメディアで、男性同性愛者の意味で「ホモ」という言葉が使われる頻度は、わりと下がってきていると思う。それに比して、「レズ」は異様に多い。この言葉を不快に思う女性同性愛者がいる、ということを、情報として知ってない(言葉が職業のジャーナリズムでありながら!)んじゃないかと不思議になるぐらいだ。


それだけではない。


レズビアンタイプキャスト」に対する「恋愛ものの主役(romantic lead/ romantic lead role)」をさらっと「普通の恋人役」と要約・意訳してくれるあたりも、ひっかかるのだが。


元のソースと比較すると、なんだかずいぶん大切なことを伝え落としているというか、間違ってるニュースに思えるのだ。
と、いうのは、シネマトゥデイが落としている、ここの部分だ。


デ・ロッシは、実生活での恋人エレン・デジェネレスにその「面白い」キャラクターをやれと説得され、ジョエリー・リチャードソンのガールフレンドという役だけを引き受けた。
De Rossi only accepted the part as Joely Richardson's girlfriend on the programme after her real-life lover Ellen DeGeneres persuaded her to play the "interesting" character.


デジェネレスはデ・ロッシにオファーされた、ドラマのヒロイン・ジュリアの同性の恋人オリヴィア・ロード役が「『面白い』キャラクターだから、やりなさい」と言い、デ・ロッシはそれに説得されて「ジュリアのガールフレンド役」という役だけを引き受けたのだ。「同性愛者、レズビアンタイプキャスト(typecast as a homosexual/ typecast as a lesbian)」を押し付けられることには、まだこだわりがあると思われる。


NIP/TUCKのポーシャ・デ・ロッシジョエリー・リチャードソン



同性愛者の俳優が抱える困難だ。同性愛者だとカミングアウトすると、「恋愛物」の主役が回ってこなくなる。ルパート・エヴェレットが女性相手のロマンス映画の主役をやっているのを観たことがあるだろうか?
同性愛者とカミングアウトすると、しばしば人はその「同性愛者」という面しか見てもらえなくなる。一般人でも苛立つことだが、表現者だとなお辛い。表現をいちいちセクシュアリティと関連づけて解釈され、「セクシュアリティと作品は関係ない!」と憤慨するアーティストが、どれほどいることだろう。
それでも、「自分の音楽」や「自分の作品」を作れるミュージシャンや芸術家は、まだいい。
役を貰って食っているショウ・ビズの俳優にとって、「同性愛者の役」しか回ってこなくなるのは、死活問題だ。だって、レズビアン役なんてただでさえ少ない。インディー映画ででもなければ、「主役」なんて稀だ。超有名レズビアンの恋人であることで「レズビアンという型にはめられる」のは、デ・ロッシにとって俳優としての将来を限定されるかもしれない、「恐怖」に近いのじゃないかと思う(僕が想像する、だけだが)。「別にいいじゃない」だけですむ問題では、なかったんじゃないか。


ここで、「(レズビアンであろうとなかろうと)『面白い』人物なのだから演れ」と言ったエレン・デジェネレスを、僕はカッコいいなあと思う。
この部分、


[シネマトゥデイ]
今はレズ役の方がおもしろくて、普通の恋人役を断っているくらいよ


[WENN, via Yahoo! News]
I was offered romantic lead roles, and I turned them down because the lesbian seemed more interesting to me.

は、明らかに誤訳だろう。中学英語の復習みたいだが、ここでデ・ロッシが言っているのは『NIP/TUCK』のレズビアン、オリヴィア・ロード役(“the lesbian”)のことで、「レズ役(一般、”a lesbian”)の方が(ヘテロ役より)おもしろい」ことではない。


ヘテロの役者が同性愛者役をやれば「挑戦」とかリベラルとか言われるのに、同性愛者の役者はこんなエクスキューズをしなければ同性愛者役ができない、または同性愛者のタイプキャスト以外の役が回ってこなくなるかもしれないと、神経質にならねばならない(役者として大根で他の役ができないからじゃない、いわば、「性的指向で差別される」わけだ)。考えてみれば、無茶苦茶な話である。


だが、レズビアンだろうとヘテロだろうと、まず「人間」だ。それが演じがいのある「面白い」人物("interesting" character)だから引き受けるのだろう。そうして来る役来る役がレズビアン役であろうと、「だから何?」なのだ。演じようとしているのは「人間」なのだから。
って、全部僕の妄想みたいなものだが、「そうよ、そうだわ、だから何?」と思ったデ・ロッシの気持ちは、分かるような気がしないだろうか。




えーだから、結論は。
エレン・デジェネレスのような恋人がいるポーシャ・デ・ロッシはうらやましい。
ということになるだろうか。




世界が嫉妬する?
From Vanity Fair