反ホモフォビアとジョグジャカルタ原則@トルコ


「性的指向と性自認の問題に対する国際人権法の適用に関するジョグジャカルタ原則」


11月7日、国連総会でジョグジャカルタ原則の公布式が行われるって聞いたんだけど?


ジョグジャカルタ原則の承認を、国連事務総長に求める署名を集めてるって聞いたんだけど?


11月7日NY国連本部でのジョグジャカルタ原則デビューまであと4日。一日一善一ジョグジャカルタ



3月の国連人権委員会での公表(@ジュネーブ)から7ヶ月ちょっと。ジョグジャカルタ原則が、国連での公布式を目前にした現在までに、世界でどう受け止められてきたか、あたふたと追っている。
ちょっと恥ずかしい言い方をすると、ジョグジャカルタ原則が、どんな望みを託されてNYへ行こうとしているのか、知りたいと思っているのである。


予測はつくことだが、「少数セクシュアリティの権利や尊厳の主張」などというものは、往々にして真面目な目で見てもらえない。ジョグジャカルタ原則の価値を一番分かっている人たちが、「歓迎されはしない」「関心は持たれない」とシビアなことを言う。「冷笑浴びせられて相手にされない」目にも、早々に遭っている*1
だがその一方で、ジョグジャカルタ原則に期待をかけ、活かし育てようとする人たちがおり、それを必要とする状況がある。
先行きはお花畑ではないが、「こんなもんに効果はない」などと現実主義を装った怠慢を決められては困る、と言いたいのが、ジョグジャカルタ原則の現状ではないかと思う、たぶん。


とはいえ、それをリサーチしたいなら、正確を期して真剣にやるべきである。こんな風に、祭の勢いで上っ面だけザクザク調べて一体何になる、という気もする。
(さすがに自分のいい加減さが気になってきていたりするのである)


がしかし、ノリで一気呵成に行かないと中々やれない、ということもあるわけで。


いずれにせよ、(ウッカリ始めた)「ジョグジャカルタ原則ウォッチング」はこれからも力が及ぶ域で続けてゆくつもりなので、とりあえずの見取り図をザックリ描くつもりで、もう少し続けよう。



今回は、トルコ共和国
ジョグジャカルタ原則が持つ可能性と限界について、気になる問題の1つは、それが中東・中央アジア・東南アジアなどのムスリム社会でどんな役割を果たせるか、ということだろう。
建国以来、世俗主義を国是としているトルコでも、LGBTの直面する文化的・法制度的抑圧は、決して軽くはないようだ。


トルコのLGBT団体Kaos GLのサイトに、1970年代〜2004年までのトルコのLGBT運動の略史がある。
Kaos GL - A brief History of the LGBT Movement in Turkey


今年の国際反ホモフォビアの日(IDAHO=International Day Against Homophobia、5月17日)、トルコでは2日に亘る国際会議が開催され(17-18日)、トルコそして世界の法・文化における性的少数者への差別・暴力の問題が議論された。そこで指摘されたのが、同性愛者の人権を保証する国際的規範となる普遍的憲章の欠如であり、ジョグジャカルタ原則が持つ可能性だ。




Edge Boston - 2007/05/18 - トルコが反同性愛に関する会議を主催


[…]

 議論のポイントの1つは、国連の側に、世界でゲイとレズビアンの権利を包括的に設計するような普遍的憲章が存在しない、ということだった。Zehra Kabasakal(ニューヨーク州立大学パーチェスカレッジ教授トルコ人権問題専門家)は、この問題について発言し、「人間の尊厳の平等を達成するために、私たちは多様性を認識し、真の平等を保証しなければならない」と語った。


 女性の人権と政治学の専門家であるKabasakal氏は、国連のいかなる文書にも、レズビアン・ゲイに関する具体的な声明がないことを嘆いた。


 Kabasakal氏は、世界的なレズビアン・ゲイの必要に応える国際的なイニシアティブのわずかな断片、特に、WHOが1990年に同性愛を精神疾患のリストから削除したことと、2006年にいわゆる「性的指向性自認の問題に対する国際人権法の適用に関するジョグジャカルタ原則」が採択されたことを挙げた。これは、レズビアン・ゲイ・トランスジェンダーの人びとのための人権の国際的規範に関する勧告・ガイドライン集成である。


 ゲスト・スピーカーには、349議席スウェーデン国会の7人の同性愛者議員の1人であるBorje Vestlund氏、ノルウェイ国会の3人のLGBT議員の1人Anette Trettebergstuen氏もいた。Turkish Daily report によると、Vestlund氏はトルコ国会もいつかオープンリー・ゲイの議員を持たねばならないという希望について発言した。一方、Trettebergstuen氏は、会議参加者にノルウェイの「結婚法からの性別規定の撤廃」*2は2009年に指向されるだろうと告げた。


 トルコのGLBT団体Kaos Gay and Lesbian Cultural Research and Solidarity Organizationもまた、この会議に参加していた。2005年10月、Kaosは同団体に打撃を与えようとしたアンカラ副知事により行われた訴訟に勝訴している。この週の会議で、Turkish Daily Newsによると、KaosのメンバーKursad Kahramanogluは、トルコのEU加盟への熱意とそれがトルコの同性愛者に対する政策に与える影響を語った。Kahramanogluはまた、EU加盟国が公的にジョグジャカルタ原則を採用するよう激励した。


3月にお目見えしたばかりのジョグジャカルタ原則が、さっそく5月のIDAHO国際会議で取り上げられているあたり、関心の高さが窺える。
トルコといったらアレ(EU加盟)が、同性愛者に対する政府の政策にも関わってくること、ためにEU諸国による公式のジョグジャカルタ原則の採用が望まれる−と、Kaosのアクティビストにより示唆されているのにも注目である。


次は、Turkish Daily Newsの記事(イスタンブルLGBT団体ラムダ・イスタンブルLambda Istanbulのサイトにも転載されている)。



Turkish Daily News - 2007/05/04 - 「トルコ国会にゲイの議員はいるか?」



 性的少数者に対する偏見はトルコだけのものではなく、これらの「不可視の」少数者は、世界中で絶えず攻撃され、辱められ、無視され、冷遇されている。しかし、いくらかの希望の持てる進展もある。25カ国から集まったさまざまな背景の、人権法問題に熟達した傑出した人権専門家集団が、満場一致で「性的指向性自認の問題に対する国際人権法の適用に関するジョグジャカルタ原則」を採択した。


Q & A  ジョグジャカルタ原則とは?


 ジョグジャカルタ原則とは、性的指向性自認に対する国際人権法の適用に関する原則の集成である。この原則は、すべての国家が遵守すべき拘束力のある国際法規範を強化するものだ。国連の主要な人権メカニズムは、国家がすべての人間を性的指向性自認を理由とした差別から確実に保護することを保証するよう、義務づけている。しかし、国際的な対応は、これまで断面的で一貫しておらず、国際人権法の包括的な体制と、その性的指向性自認の問題への適用に対する首尾一貫した認識を欠いていた。ジョグジャカルタ原則は、これを行った。ジョグジャカルタ原則は、広い範囲に亘る人権の規範と、性的指向性自認の問題に対するその適用に取り組んでいるのである。


先月、ラムダ・イスタンブルイスタンブル市当局から活動停止を言い渡されたことが、世界のLGBTメディアに波紋を投げ掛けた。
ゲイジャパンニュースー 2007/10/31−イスタンブル市当局 LGBT団体に活動停止要求


トルコのLGBTもまた、「LGBTの権利を保護する普遍的憲章」としてジョグジャカルタ原則が持つ可能性を知悉しているし、必要としているのだ。

*1:10月1日、ヒューマン・ライツ・ウォッチグアテマラ議会の「結婚・家族保護法」に抗議の書簡を送り、家族の規定にジョグジャカルタ原則を適用することを勧告したが(関連エントリ)、キリスト教系保守党議員はIPSに対し「同性愛は趣味(preference)であり、権利ではない」「憲法は同性愛者を国民として守るが、その趣味は守らない」とコメントした。

*2:だと思う。="gender mutual marriage act”。これのスウェーデンの事例については、スウェーデンの今さんによる、同性の結婚 − 結婚法からの性別規定の撤廃、同(2)を参照。