国際反ホモフォビアの日(5月17日)は、「反トランスフォビアの日」:IDAHO Committeeのアピール

  
(5月17日追記)
75カ国300団体がアピールに署名したそうです!
個人ではパリ市長ベルトラン・デラノエ市長や哲学者ジュディス・バトラーなど、すごい顔ぶれが揃っています。署名人・団体の一覧はこの↑リンクから。

  
国際反ホモフォビアの日 IDAHO = International Day Against Homophobia (5月17日)
  
日本のイベント・サイト やっぱ愛ダホ!Idaho-net
 札幌、仙台、千葉、新宿、浜松、名古屋、大阪、甲子園、福岡の9都市で街頭アクションが行われるそうです。
 「多様な性にYes!の一言メッセージ」募集 5月14日までだそうです。
  
1990年5月17日、WHOの「国際疾病分類(ICD)」から同性愛に関する項目が消え、「いかなる性的指向も障害とは看做されず、治療の対象にはならない」ことが明らかにされました(この経緯については、不完全ですが去年の5月17日のエントリを参照)。
  
これを記念して、5月17日は国際反ホモフォビアの日 International Day Against Homophobia = IDAHO」、未だ世界各地で終わらない同性愛者に対する差別や迫害に抗議し、同性愛差別の背景にある同性愛嫌悪(ホモフォビア)との戦いを訴える日とされています。
  
5月17日が近づくにつれ、色々な国のIDAHOサイトが活動をはじめ、イベント情報が流れています。
日本では、9都市で街頭アクションが行われるそうです。
今年の5月17日は日曜日、かなり注目を集めるかもしれませんね。
  
各国・各都市でさまざまなイベントが行われることになると思いますが、インターナショナルなIDAHOネット・IDAHO Committeeは、今年のIDAHOを「反トランスフォビア」を訴える日にすることを、呼びかけています。
  
トランスフォビア=トランス嫌悪=トランスジェンダートランスセクシュアルなど、「男/女」の二元的な性別の枠を越えている人に対する、非合理的な嫌悪感情、それによるトランスの人々への差別や暴力行為。
  
IDAHO Committeeのサイトには、国連・WHO・各国政府に対し、トランスフォビアに対する取り組みを要求するアピールが掲載されています。
  
トランスフォビアの拒絶と性自認の尊重を求める国際アピール International Appeal to reject transphobia and respect gender identity
  
このエントリの下に、(またヘタ訳ですが)訳してみました。
  
このアピールは、いま世界の多くの国で、トランスジェンダートランスセクシュアルの人びとが偏見や憎悪犯罪の恐怖に直面していること、あるいは直接的な暴力に晒されなくとも、性別二元制度に基づく社会が、社会生活、日常生活の多岐に亘って、トランスの人びとに苦痛を与えていることを伝えています。
そして、このような状況を変えるために、
国連に対してはーいま世界で起きているトランスの人びとに対する憎悪犯罪(ヘイト・クライム)を明らかにし、その撤廃のために行動すること、
WHOに対してはートランスジェンダーを障害と看做さず、トランスの人々が望む適切な医療サービス・サポートを受けられるようにすること、
各国政府に対してはージョグジャカルタ原則(「性的指向と性自認の問題に対する国際人権法の適用に関するジョグジャカルタ原則」)に基づき、性自認ジェンダー表現を理由とした差別を撤廃することを、求めています。
  
現在、このアピールには、
Transgender Europe
Gender DynamiX
ARC International
ILGA
IGLHRC
の5団体が、名を連ねています。
(アピールに賛同したい団体・組織は、IDAHO Committeeにメール(contact@idahomophobia.org)を送れば、5月17日近くに発表されるアピールの署名人のリストに加えられるそうです。)
  
トランスジェンダーを障害と看做さない」というWHOに対する訴えは、ICDに記載されている性同一性障害(F64)を外すことを求める、ということを意味しているんでしょうか?
  
ICDと並んで世界の精神医学の2大典拠とされているアメリカ精神医学会の「精神障害の診断と統計の手引き(DSM)」が2011年に改訂される予定ですが(DSM-V)、改訂版で性同一性障害を削除するか否かという議論が学界では行われているといいます。
このアピールに名を連ねているTransgender Europeは、針間克己先生のブログによれば、DSMからの性同一性障害の項目削除を支持しているとのこと。
次期DSMで性同一性障害は?ーAnno Job Log
  
ひとりひとりのトランスジェンダートランスセクシュアルの人々が、このアピールのような方向性をどう思われるかは、僕には分かりません。
「トランスは障害ではない、障害と看做すな」という主張は、(「同性愛は病気ではない」という主張と同じように、)「障害や病気=悪いもの」とする「健常者至上主義」と表裏一体であるように思われますし、また、ただ性同一性障害を「障害のリストから外す」ことが、トランスの人びとの生き易さにつながるわけではないでしょう。トランスの人びとの生き辛さを作っているのは、性別二元制度にすみずみまで支配された社会なのですから。
  
しかし、アピールのアジェンダの是非はともかく、ホモフォビアへの抵抗を考えてゆくなかで、トランスフォビアのことを考えるのは、とても重要なことだと僕も思います。
  
ホモフォビアは、じつは、トランスフォビアと切り離せません。同性愛に対する偏見は、しばしば、「男らしさ」「女らしさ」という考えかたと強く結びついています(これについては、飯野由里子さんによるこのコラムが分かりやすく説明しています)。ホモフォビアのもたらす差別やステレオタイプな偏見は、トランスの人たちも被っているのです。
  
しかし、ホモフォビアとトランスフォビアは、まったく別物でもあります。そもそも、異性愛・同性愛というカテゴリが、性別二元制を当然の前提にしています。トランスフォビアは、非常にしばしば、同性愛者の中にも強く見られます。同性愛への偏見を批判し、ホモフォビアがもたらす差別の解消を訴えることは、トランスジェンダーへの偏見を批判しトランスフォビアがもたらす差別の解消を訴えることにつながるわけではありません。
  
ホモフォビアが引き起こしてきた差別との人間社会の格闘の歴史を振り返り、いまも世界でホモフォビアが引き起こしている多くの差別問題のことを知り、性の多様性を尊重することの大切さを訴える日、世界の、日本の、自分自身の中のトランスフォビアのことを考えようーその呼びかけに、どうやって答えられるだろうかと、考えています。
  

トランス恐怖を拒否し、性自認の尊重を:国連・WHOおよび世界各国政府への訴え

  
毎日、求められるジェンダー規範に適合できずに生きる人びとが、世界中で暴力・虐待・拷問・憎悪犯罪にさらされています。公共空間においてのみならず、自分の家族の中でも。多くの暴力事件は記録にも残されていませんが、2009年の最初の1週間だけでも、ホンジュラスセルビア、合衆国でMtFトランス女性らが殺害されました。FtMトランス男性も、通常は社会的、文化的に不可視化されているにもかかわらず、同じくように憎悪犯罪、偏見、差別の犠牲になっています。
  
トランスの人びとの基本的人権は、あらゆる国で無視、否定されー無知、偏見、恐怖または嫌悪を被っています。トランスの人びとは日々圧倒的な差別にさらされ、それはかれらの社会からの排斥、貧困、劣悪な医療、相応しい雇用への見込みの薄さにつながっています。
  
各国政府や国際的機関は、トランスの市民を守るどころか、目先のことしか考えない怠慢や反動的な政策で、社会のトランスフォビアを強化しています。
  
法と社会的公正の欠如のために、あまりに多くの国で、トランスの人びとは、根本的に自分の性別ではないことを経験的に知っている性別で生きることを強制されています。ほとんどの国では、人が性別を変更しようとすると、法による処罰、暴力的な虐待、社会的なスティグマを受ける可能性があります。他の国では、合法的に性別変更が認められるためには、不妊手術かその他の主な外科手術が条件となっています。これが不可能な、あるいは望まないトランスの人びとは、自分が望む性別を法的に承認されることができず、国境を越えるとき、警察に助けを求めて駆け込むとき、新しい職に応募するとき、新しい住居に入居するとき、あるいは携帯電話を買おうと思うだけでも、いつも「カムアウト」を強制されるのです。
  
この要因のひとつは、現在の国際的な医療分類が、いまだすべてのトランスの人びとを精神的に「障害がある(disorder)」と見なしていることにあります。この時代錯誤の考えは、侮辱的かつ不正確であり、トランスの人びとの生活のあらゆる場面で、日常的に行われる差別と汚名の正当化に利用されています。
  
近年、一部の国で、その社会的、文化的背景はそれぞれに大きく異なるものの、司法面での重要な発展が見られました。法の勇気ある決断のあとに続いた行政の施策により、トランスの人々はより社会に受け入れられるようになりました。これは、理解と前身は可能であるということを示しています。
  
現在、トランスの人々は世界のあらゆる場所で自身の人権と自由を求めて立ち上がっています。
かれらは一致して、その性自認ジェンダー表現を理由に、自分たちが病気というラベルを貼られたり、人間ならざるものとして扱われることをもはや受け入れることはない、というメッセージを発し続けています。
  
ゆえに私たちは、以下のことを求めます
  

  • WHOは、トランスの人々を精神障害と看做すことを止め、適切な医療と心理学的なサポートを、トランスの人びとが望むようなかたちで受けることができるようにしてください。

  

  • 国連人権機関は、トランスの人々が全世界で直面している人権侵害を調査し、これらの侵害と戦う行動を起こしてください。

  

  • 世界の各国政府は、国際的な[人権法的原則を示す]ジョグジャカルタ原則を採用し、すべてのトランスの人びとが、適切な医療を享受し、もし望むなら性別適合手術を受け、公的身分に望むジェンダーを採用することが許され、トランスフォビア的な差別、偏見、憎悪犯罪にさらされることなく社会、家庭、職場で生活することができ、かれらが警察・司法組織によって直接的、間接的暴力から守られていることを保証して下さい。

  
私たちは、国連、WHO、世界各国政府がこれらの手段をとり、トランスフォビアを退け、市民が文化的自由の一つの表現として、望むジェンダーで不足のない自由な生活を送ることができる権利を、受け入れることを求めます。

『BIG ISSUE』118号(5月1日発売)のスペシャルインタビューはショーン・ペン

金城武のイケメン孔明につられて買った117号で知りましたが、
  
BIG ISSUE』次号118号(5月1日発売)のスペシャル・インタビューは、ショーン・ペンだそうですよ

  


アメリカ映画界の反逆者ショーン・ペンが、オスカー受賞作品「ミルク」、アカデミー賞や自分の映画観、自国の政治について語る。
  
ショーン・ペンも役ごとに顔つきまで変わってしまう俳優だけれど、このハーヴェイ・ミルク顔で表紙を飾ってくれたら、これも買い。
  
映画『ミルク』オフィシャルサイト
  

追記

ハーヴェイ・ミルク顔じゃなくて、アカデミー賞顔だった。まあいいか。
  

ジョグジャカルタ原則の、旗

  
「性的指向と性自認の問題に対する国際人権法の適用に関するジョグジャカルタ原則」
  
お久しぶりです。ほぼ消滅しかけていますが、死なないようにがんばろうと思います。
  
途絶するにもほどがあるほど途絶していたジョグジャカルタ原則ウォッチングですが、また、えらく時宜を外した話題を取り上げてしまいます。けれど、僕的には何をさておいても外せない話題です。
  
2008年11月25日ー12月10日“Our Sexualities, Our Genders, Our Bodies ~ Lesbian, Bisexual, and Transgender RIGHTS!”@タイ・フィリピン・インドネシア
  
昨年の冬、女性に対する暴力撤廃国際日(11月25日)から、世界人権の日(12月10日)までの女性に対する暴力に抗する16日間アクション16 DAYS of activism against gender violenceに合わせ、タイ・フィリピン・インドネシアで、アジアの女性(ここでは女性の身体に生まれたという意味)性的少数者レズビアンバイセクシュアル、FtMトランスジェンダーのためのイベントが行われました。
  
3カ国でそれぞれ開催されたイベント情報は、こちら
  
このイベントと一緒に、ジョグジャカルタ原則公布式が、3カ国で行われたんですね。
  
そして、アジアのLBT団体が送ったメッセージ・パネルによって、「ジョグジャカルタ原則の旗」が作られたんですね(詳細は、上掲エントリ参照)。
  
日本からは、かのレズビアン系ニュースサイト・デルタGが参加されました。デルタGのミヤマアキラさんが、女工哀史の気分で手作りされたというパネルが、旗の1部なっているのです。
  
水面下で動く日々−デルタG
  
そうです、僕は、イベントへの関心もさることながら、アジアのいろんな団体の心のこもった「ジョグジャカルタ原則の旗」が見たかった。ただのミーハー根性と言われたら、そうですね、はい。
  
旗の写真はないか〜ないか〜と思っていたら、ちゃんとあるべき場所にありました、はい。このイベントをアジアのLBT団体と共催したグローバルLGBT人権NGO、IGLHRC-Asiaのサイトです。
Asia: LGBT Activists Commemorate Human Rights Day – IGLHRC
  

  
、です。アジアで女性を取り巻く、そして性的少数者を取り巻く二重の困難を生きる性的少数者女性の権利と尊厳を守るための。
  
この「ただの布」が、アジア各国・各地で保守的な伝統や性差別に取り巻かれたLBTの人びとの命と尊厳を守る?むろん、そんな、能天気なことを言うことはできません。
しかし、2006年11月に生まれ、いま満2歳のジョグジャカルタ原則は、着実に成長してきています。このイベントが行われたのとほぼ同じ時期の2008年12月18日、国連総会に性的指向性自認に基づく人権を確認する声明が、日本を含む66カ国の署名とともに提出されました。
国連総会に人権と性的指向・性自認に関する声明提出=日本含む66カ国が賛同−2008/12/19−ゲイジャパンニュース
  
この声明にも、ジョグジャカルタ原則は噛んでいます。2006年のモントリオール宣言から続く、「人権としてのセクシュアリティ」というグローバル戦略のなかで、ジョグジャカルタ原則は、たぶん、急速になにかの武器になりつつあります。
  
そして武器は、危険なものです。
  
最近、LGBT人権問題についての、興味深そうな論文が出ています。
Critique of 'sexual orientation' and 'gender identity' in human rights discourse: global queer politics beyond the Yogyakarta Principles, Contemporary Politics, Volume 15, Issue 1 March 2009 , pages 137 - 156 - informaworld
  
性的指向」「性自認」というアイデンティティ概念を、「人権」の文脈で自明化してゆくことの危険に、クィア・ポリティクスの立場から懸念を示す論考のようです。
また、ジェンダーセクシュアリティの問題にかかわる、世界的なバックラッシュの問題もあります。
いま、アクティヴィズムのなかで、みずからを主流化しようとしているグローバルLGBT政治が、どんな影響を及ぼしてゆくのか。
  
この先、ジョグジャカルタ原則はどんな方向で、どんな役割を負うことになるのか。
僕には想像がつきません。正直、不安でもあります。
  
でも、だからこそ、この旗のことを忘れたくないと思います。
ジョグジャカルタ原則がそのために作られた、人権と尊厳がいったい誰のものなのか、忘れないように、目に見えるように。
  
  
で、旗ですが、デルタGのパネルは?情報によると、僕が大好きな人のイラストのはずなんです。でも、サイトに載っている他の写真も目を凝らして見たんですが、う〜ん、見えん。
  
デルタGさんのパネルを見つけた方、どうかりょうたまでご一報下さい!
(なんのために?!って、僕のミーハー精神を満たすためです!<笑)

旅先から

  
ご無沙汰しております。お元気ですか。
この3週間ばかり、旅をしています。
って、ただの仕事なんですけども。
  
職場の仕事の関係でここ数年、だいたい年に1回、1,2週間長くて3週間ぐらいの海外出張に行かせてもらうことがある。
  
といっても仕事はチーム行動だし、僕は技術担当なので、毎日朝から夕方まで無言の資料と機材とパソコンを相手に過ごし、生きている人とは行きと帰りの下手な挨拶ぐらいしか接触がない。あまり外国を旅行をしているという気にならない。
  
それに、相当な強行軍で、すこしも大名旅行じゃないけど、少なくとも僕については、至れり尽くせりなんである。トラブルは訪問先を知悉してもいれば言葉も堪能なメンバーがささっと解決してくれるし、食事の注文すらしなくていい。自分でやることといえば、専門家の間での交流やミーティングを免除してもらい、スタンドでテイクアウトを買って帰るときか、ホテルの洗濯機の前で辞書を引くときぐらいだ。臨場感に欠けることはなはだしい。
  
新聞も読めないしTVのニュースも理解できないから、いま何が起きているのかもほとんど分からない。精神的引きこもり状態になる。花と言われる都に来ているのに、なにやってるんだ。
短期間訪れて去るだけのよそ者は、その土地や街と自分なりに語り自分なりの接点を見いだそうとしながら、その過程で「旅人」になるんだろう。なにもしていない僕は、どこまでもただのよそ者だ。つくづく自分は旅がヘタだと思う。しかしもう何年も出張以外で旅行をしていないな。
  
でもさすがに歩くぐらいのことはするので、犬も歩けばなにかに当たる。
  
虹色のものを見かけると、たあいもなく喜ぶ。
  

    
マドンナ様には虹色が似合う。
  

  
2010年ゲイ・ゲームはケルンなのだった。
「ここではゲイ・ゲームを応援しています」(で、いいのかな?)
  

  
ゲイバーに行ってみたくはあるけど、スケジュール的に無理があり。
  
ちょっとステキなものを手に入れる。
  

  
これは僕好み。
  

  

  
しかし、気分はあまり明るくない。まあ精神的引きこもりのせいが大きいのだけれど。
今回は3か国を強行軍で回っているのだが、ここに来るまえは、もっと厳しい国にいた。とはいえ自分の目で見たわけではなく、ただの聞きかじりに過ぎない。抑圧や差別の実相が、何も知らない旅行者に理解できるわけもない。ただ、何も姿が見えない、それだけだった。
だがそれを思い出して、そのギャップが辛いのだ。自由で、目に見えることが当たり前である社会が一方にあることを見せられると、むしろ「なぜ」と思ってしまっている自分がいる。そこにあるギャップに戸惑い、どう受け止めていいのか分からなくなっている自分に戸惑っている。
  
でもそれもみな、積み重ねられてようやく可能になったものなのだということも思うのだが。
  
  
ともあれ、この精神的引きこもり状態(仕事はしていますが)も、あと数日で終わる。そのあと、日本に帰ります。どうやって生活を再開することやら。
  

  
ここでも、あなたに会う。

「家族」という「生存ユニット」

  
あけましておめでとうございます、というのも間抜けすぎるぐらい間が空いてしまい、なさけないかぎりの1月末である。
  
他のブログのように、年の最初のエントリをカッコよく始めたかったのだけれど、今年は個人的な事情で、きれいさっぱり「年末年始が存在しない」年末年始を過ごしてしまった。
その事情のほうは落ち着いてきたものの、今度はそのために停滞を余儀なくされていた仕事に追いまくられ、ほぼ1ヶ月、ウェブ的には消滅状態だった。その間、いただいていたコメントをながながと放置してしまったりして、えらい非礼も働いてしまった(ほんとうに失礼しました、早く返事しますね)。
  
まだ仕事はほぼ年度末までバタバタしているため、更新は停滞がちになりそうなのだけれど、できる範囲で、少しずつ書いていこうと思う。というわけで、今年もどうかよろしくおねがいします。
  
  
さて。
このブログには、あまり僕の身辺の個人的なことは書いていない(書くようなことが何もないからだが)。しかし、このエントリではこの消滅期間しばらく考えていたことを書こうと思っているのだけれど、具体的なその内容もそれについての僕の考えも、ダイレクトに個人的なことであったりする。別の視角から客観的に分析してみるという作業も経ていないので、読んだ人にどんな印象を与えるか分からない、独善的でいびつな思考を開陳してしまうかもしれない。そんなふうに"はらわた"をぶちまけるのは、匿名HNでも勇気がいるのだが、考えてみたらほかのエントリだって多かれ少なかれ人にはどう見えるか分からない「個人のはらわた」をぶちまけてるわけだし、とりあえず去年のはらわた(??)は吐き出して記録しておかないと前に進めない、という気持ちがあるので、書いておこうと思う。

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インドネシア・パプア州「PWHマイクロチップ監視条例案」延期される(2008/12/16)

  
マイクロチップ条例案の可決は、月曜日(12月15日)に「延期」が決定した。
  
ジャカルタ・ポストの記事によると、州政府が頑張った。NGOも抵抗し、そして世論の反発も大きかったことが分かる。政府は、HIVエイズ予防・治療対策の世界標準を遵守する意志を示している。
  
しかし、あくまで「延期」であり、決して条例案が廃止になったわけではない。立法機関ではこの条例案の支持者が多いらしいことに、驚かされる。
  

Papua puts off controversial microchip plan - The Jakarta Post(2008/12/16)
  


パプア州立法会議は、承認が考えられていたパプアのHIV/AIDSを扱う条例の支持を、この月曜日、延期することを決定した。州政府が人権侵害になると考えたためである。
Papua's provincial legislative council has decided to postpone the endorsement of the Papua HIV/AIDS Handling bylaw planned for approval this Monday, after the provincial administration deemed it would violate human rights.
  
「承認は延期されたのは、立法府・行政府が、マイクロチップHIVエイズと生きる人びとに使用することについて、異なる見解を持っていたためだ」と、立法会議を代弁してKomarudin Watubunは月曜日、ジャカルタ・ポストに語った。
"The endorsement was postponed because the legislative and executive branches had different perceptions on the use of microchips for people with HIV/AIDS," council deputy speaker Komarudin Watubun told The Jakarta Post on Monday.
  
「行政府は、それは人権侵害だと見なしている。しかし、我々評議員は、社会に意識を打ち立てるひとつの努力と考えている」
"The executive sees it as violating human rights, while we councilors view it as an effort to build awareness within society."
  
HIV/AIDSと女性問題で活動する複数のNGOも、条例案に強く反対を表明していたと、Komarudinは付け加えた。
Several NGOs working on HIV/AIDS and women's issues have also expressed strong opposition to the draft bylaw, Komarudin added.
  
この膠着状態のために−彼は続けた−地方政府と立法機関は、問題のあるマイクロチップの条項を、大きく広まった公の反発に従って、草案から削除することに同意した、
Because of this deadlock, he went on, the provincial administration and the legislature might "ree to strike the controversial microchip article from the draft, following widespread public rejection of the article.
  
「人びとは、(その条項を)認めることはできないし,認めないだろう。会議は自分の意志を強制することはできない」彼は語った。
"If the public cannot or will not accept (the article), the council cannot force its will," he said.
  
「条例の承認は、一般の反応に罹っている。市民がそれに反対しているのに、可決はできはしない」
"The bylaw's endorsement depends on public reaction. Why would we pass it if the public was "ainst it?

条例案は、行政府、立法府NGOが同意したときにのみ、可決される。同意に達するために、会議が開催されるだろう」
"The draft bylaw will only be passed when the administration, legislature and NGOs "ree on it. Meetings will be held to reach this."
  
パプアの副知事Alex Hasegemは、行政府の応答を立法府の正式な会合で読み上げ、HIV/AIDSの扱いは世界的な原則を適用すべきだと述べた。
Papua Vice Governor Alex Hasegem, reading the administration's response at the legislature's plenary session, said HIV/AIDS handling should apply universal principles.
  
これらの原則の1つは−彼は続ける−偏見と差別を根絶し、HIVエイズとともに生きる人びとを尊重することだ。
One of those principles, he went on, was to respect people living with HIV/AIDS by eradicating stigmata and discrimination.
  
HIVエイズとともに生きる人びとにマイクロチップを埋め込むことは、これらの原則から外れる。それは一種のスティグマ化だからだ」Alexは語った。
"Implanting microchips in people with HIV/AIDS is not in accordance with these principles because it is a form of stigmatizing," Alex said.
  
提案された策は、世界のいかなる地域でも行われたことがなく、どの程度性交するのか試されたこともない。
The proposed measure has never been done anywhere in the world and has not been tested to gauge its success.
  
Alexは、条例はマイクロチップ計画の試運転のためのものではないと言って、マイクロチップ条項を条例草稿に入れることを拒絶した。
Alex rejected the inclusion of the microchip article in the draft bylaw, saying the regulation was not meant as a test run for the microchip scheme.
  
現在のところ、40条項の条例は、マイクロチップを活動的または盛んに性関係を求めるHIVエイズとともに生きる人びとに埋め込むことを求めている。
As it stands, the 40-article bylaw requires microchips be implanted in people with HIV/AIDS deemed "gressive, or actively seeking sexual intercourse.
  
11月、John Manangsang評議員は、市民はこの問題に関して人権を誤って考えるべきではない、と述べた。
「もし我々がHIVエイズとともに生きる人びとの権利を尊重するなら、そうでない人びとの権利も尊重すべきだ」と彼は語った。
In November, councilor John Manangsang said the public should not misunderstand human rights as it related to this issue.
"If we respect the rights of people living with HIV/AIDS, then we must also respect the rights of those without," he said.
  
彼は加えて、人びとは条例案を個々の条項ではなく全体として判断すべきだとも語った。
He added the public should judge the draft bylaw as a whole rather than by its constituent articles.
  
「草案は,例えば、すべての人が早期に予防措置を取れるよう、HIVエイズ検査を受けることを求めている」
"The draft, for instance, requires everyone to take HIV/ AIDS tests so preventative measures can be taken early on."

インドネシア東部・パプア州、「性的に活動的な」PWHにマイクロチップを埋め込んで監視する条例案:英字・日本語ニュースのリンク集

  
※注記:
※このエントリは、問題がなんらかの解決を見たというニュースが出るまで、随時更新したいと思います。
※僕がチェックできるのは英字・日本語ウェブニュースのみで、現地のインドネシア語ニュースがチェックできないため、ここでカバーされている情報には止むを得ない限界・偏向があることに、ご注意下さい。
※完全な素人の立場からの、自分の理解のための情報収集エントリです。よって、問題を分かり易く「解説」し「伝える」性質のエントリではない(誤りを含む可能性もある)ことを、ご了承ください。
  
※12月15日(月)、可決延期が発表:
インドネシア・パプア州「PWHマイクロチップ監視条例案」延期される(2008/12/16)
  
※2009年12月1日世界エイズデー
  
マイクロチップ問題の波紋から約1年後、2009年第21回世界エイズデーに際したインドネシアHIVエイズ問題の記事の中で、パプア州マイクロチップ監視条例問題が再び議論されている。
インドネシア:HIV予防、厚い壁 感染突出、パプア州 - 毎日jp(毎日新聞)(2009年12月3日)
  
コンテンツ(予定):

  

パプア州マイクロチップによるPWH監視条例案」(未完)

  
恐らくこのニュースは、11月22日以降に、ウェブ上の英字メディアで取り上げられた。日本語では、世界エイズデーの12月1日(月)、YOMIURI ONLINEの記事で伝わった。
  


チップ埋め込んでHIV感染者を監視、インドネシアで窮余の条例案(キャッシュ)
   
ジャカルタ=佐藤浅伸】エイズウイルス(HIV)感染者の皮膚にマイクロチップを埋め込み、信号を受信して性行動を監視する−。
  
 インドネシア東端パプア州で、異例の条例案が可決される見通しが強まっている。
  
 感染拡大に歯止めをかけるための窮余の策だが、民間活動団体(NGO)などから「人権侵害だ」と強い批判が出ている。
  
 条例案によると、「性的に活動的」な感染者・患者が対象で、故意に他人を感染させた場合、最高で禁固6月か罰金5000万ルピア(約40万円)が科せられる。また、全州民にHIV検査を義務付けている。
  
 パプア州は独立紛争が続いたことから外国人の立ち入りが制限され、情報面で立ち遅れた。エイズ教育も普及しておらず、感染者・患者数は累計で約4300人に上り、ジャカルタ特別州と並んでずば抜けて多い。
  
 現地からの報道によると、法案は近く可決され、年内にも施行される可能性が高いが、エイズ問題に取り組む地元NGOなどは「感染者は同じ人間であり、動物ではない。予防のための最善の方法は教育の普及とコンドームの使用の徹底だ」と反発している。
  
(2008年12月1日19時10分−読売新聞)
  
一読して驚く衝撃的なニュースだった。僕は、HIVエイズ問題にはーゲイ男性としてーそこそこ平均知識しかなく、ましてやパプアというインドネシアのいち地方州の名前は、正直いうと、はじめて聞いた。けれど、このニュースには、大きなショックを受けた。
  
HIVエイズについては、世界各地から毎日のように、深刻なニュースが伝えられている。そして、僕はいつもそれに聞かないふり、知らないふりを決め込んでいる。なのになぜ、このインドネシアパプア州のニュースが衝撃的に思われたのか。
  
「性的に活動的」(よく意味が分からない)な人間にマイクロチップを埋め込み行動を監視するというアイディアの異常さ(あからさまに非現実的)のせいだけでは、ないだろう。HIV感染をめぐって世界で、そして日本で起きている/起きつつある、僕のようないち個人すら、知らないふりをしていても感じ取っている問題を、このパプア州条例案がもろに突きつけたように感じたからだと思う。
十分に理解できているか、自分でも分からないのだがー
  

  1. パプア州条例案が、「HIV感染の犯罪化(刑事的処罰対象化)」傾向を牽制するためにUNAIDS(国連エイズ合同計画)が設けようとしている基準を、驚くばかりに逸脱、ほぼ無視しているに等しいこと。
  2. それが、HIV予防・治療プログラムを届かせることが難しい地方のHIV感染拡大への対策として出されていること。つまり、この条例案が、プログラム普及の困難な努力の「放棄宣言」をしてしまっているかのように感じられること。
  3. この「異常な(extraordinary)対策」が出されるに至ったパプア州HIV感染拡大の社会的理由が、パプア州の深刻な先住民抑圧問題に根ざしている、ということ。つまり、深い不信感を生み出してきた対先住民政策の1つの結果への対策として、さらに尊厳を踏みにじり不信を育てるような政策が提起されたということ。

  
  

パプア州PWH監視条例案報道:英字・日本語ニュースのリンク集(随時更新)

  
この条例案のニュースが騒ぎを起こしてから、約3週間経つ(12月13日現在)。「否決されるかもしれない」との報道も出ているが(12月3日)、いったいいまどうなっているのか、はっきりしない。
  
とにかく、限られた情報源だが読むことができるニュースで、この「監視条例案」の問題は何なのか?どんなリアクションが起きているのか、どうなるのか?こんな条例を阻止する対策と支援が、国際社会から与えられることになるのか?を、追ってみたい。
  

発端

  
HIV陽性者にマイクロチップを埋め込んで監視する」という案は、2007年に最初に報道されている。

  

国内メディア

  

  
12月16日、条例案可決延期と、マイクロチップの項目の削除が発表(→「問題の解決」へ)
  

パプア州HIV問題

  
パプア州HIV感染拡大の深刻さを伝える報道は多い。ここでは日本語ニュース以外は、比較的新しいニュースを集める。
  

参考:HIVをめぐる法制化

  

HIV検査の義務化

  

問題の解決(報道待ち)

  

延期

  
続々と、報道が出つつある。
  

  • Microchip ditched in HIV/AIDS bylaw - The Jakarta Post(2008/12/20)
    • 「The articles covered implanting microchips in people with HIV/AIDS deemed to be "sexually aggressive", issuing HIV/AIDS-free cards and the so-called Next Generation Project."It is heartening to know that the three articles have finally been dropped from the bylaw," HIV/AIDS activist from the Jayapura Support Group, Robert Sihombing, said Friday.」マイクロチップ項目だけではなく、「陰性証明書(HIV/AIDS-free cards)」などの項目も削除になったらしい。が、「"However, I wonder why the legislative and executive branches were so quick to approve the provincial draft bylaw without publicizing the amendments." 」「the public had become stuck on the controversial articles and was not aware of the full content of the draft bylaw. 」だそうだ。

  

「健康条例案(health bill)」のその後は?

  
(2009年2月1日記)
マイクロチップ項目や「HIV陰性証明書」項目を削除した「健康条例案」がその後通過したのか、確認できずにいる。「全州民HIV検査義務化」など、慎重を期すべき項目が含まれているのだが、マイクロチップ項目が削除された段階で、報道の関心が明らかに引いている。
インドネシア東部地域からは、パプア州に隣接する西パプア州を1月7日に襲った大震災の被害の様子が伝えられている。そちらのほうも気がかりだ。